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第百三十三話 アカシとタコワサ

 個としての力だけでなく、戦士たちの取りまとめにも力を見せたアカシは、僅かなうねりで小頭へと上った。

 タコワサの見る限り、アカシには驕りというものがなかった。他より大きな力を持つ戦士は多くの場合、その力を周囲に誇示しようとする。それは、他種族を狩って生きるマ族戦士のならいといってもよい。己がどれほどの力を持っているかを示すのは、大事なことであった。

 だが、アカシという雄は、類まれな力を持ちつつも、それを必要以上に見せつけようとはしない。

 あるとき、アカシが幼生の頃は弱く小さな個体であった、という話を聞いた。そしてそれを守っていたのが、雌の戦士として槍持つ触手を伸ばしているマリネであったとも。

 それを聞いて、納得できるものがあった。今の己が己の力であるのではない。そういう考えをその身に持っているのであろう、と思った。気をつけて目を留めてみれば、確かにアカシによる戦士の取りまとめは、最も力弱いものに対するこころ配りが見て取れる。

 それに気付いた際、タコワサの腹腔に湧いたのは、アカシに対するはじめての嫉妬だった。

 どうしてお前はそのようにして在るのだ、アカシ。

 妬むこころの中央にあったのは、そういうものだった。

 強き肉体を持ち、弱きものどもを守る。それではまるで、本当に勇士タコヤキの再来のようではないか。俺が、求めても得られなかったものではないか。

 それを見せつけるようにして。アカシ。なぜお前は、そこにいるのだ。

 こやつにだけは負けたくない。そう思った。そして、それまで以上に、武技を鍛えた。

 そうして、巡りは過ぎ。アカシは多くの戦士の胴を越えて、大頭となった。

 アカシは己の副官に、タコワサを手命した。己がアカシをどう感じているか。タコワサはそれを一切、体表には出さなかった。

 アカシは気付いていなかったのか。いや、気付いていただろう、とタコワサは判じている。

 アカシに妬みのこころを向けているのは、己だけではない。異種であるアカシは、その身に常にそういうものを集めている。アカシは鋭い。そういった他者のこころの持ちように気付かぬようでは、到底大頭にはなれぬ。

 おそらくすべてをわかった上で。アカシはタコワサを副官に任じたのだ。

 負けた、とこころの奥底から思ったのは、このときだ。

 そうしてそれから、このうねりまで。タコワサはアカシの副官としてある。

 妬みのこころは今でも腹腔の奥の奥に澱みつつもある。だがそれを押し退けるいくつもの光明を、アカシはタコワサに、同じ思いを抱く戦士たちに与えてきた。

 遠く高い水上から。深い水の底に時折差すように。それはあったのだ。

 だから最後の銛を握り、タコワサは長き殻どもの群れへと突き込む。


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