第百三十一話 銛の壁
ただ一頭だけ残ったタコワサは、海藻で縛りつけた荷を解く。背に負っていた多数の銛が砂地に落ちる。その中には、上手く回収できたシオカラ作の長銛も混じっていた。
それらを一本ずつ、持ち手を上にして砂地に突き刺してゆく。タコワサの隣に、銛の壁ができあがる。
そして長銛の一本を、タコワサは触手に握っていた。
砂煙が近づいてくる。異変に気付いた長き殻どもが押し寄せてくるのだ。
先頭に並んでいるのはやはりクルマ族だ。クロトラ族より一回り大きいクルマ族の甲殻は、投げ銛では容易く貫けない。三本持ちの槍でも難しい。
そんなものどもを相手に、柔らかきものどもは戦ってきたのだ。
その目で距離を測る。それから銛を握った二本の触手を持ち上げ、後ろへ引いた。
全身の力を乗せ、振り切った。
通常のものより長い銛が水を切って飛ぶ。それは、他の戦士では到底届かぬ距離の、押し寄せるクルマ族の一頭に突き立った。
目と目の間。堅き殻を持つものの、その中でも殻の薄い場所。
多少の形は違えども、弱い部分はタラバ族と同じ。これまでの戦いの中で、タコワサはそのように判じていた。
脚を止めて地を這う仲間を顧みることもなく、クルマ族の群れは突進してくる。
砂に突き立てた銛の中から、一本を引き抜いた。
すぐさま投擲する。狙いをつけたそぶりもなかったそれは、やはり過たず先頭を走るクルマ族の頭部に突き立った。
だがそのクルマ族は怯まず、他のものと同じくして突っ込んでくる。
次の銛が飛んだ。先に刺さった銛に重なるように次の銛が突き立ち、先の銛を深く押し込む。
今度は、そのクルマ族も脚を止め、横倒しになった。
それでも群れは死骸を踏み越え、近づいてくる。
銛を二本、触手に取った。地は、残りの二本だけを触脚にして支えている。
放った。二本が、次に先頭を走る一頭に間断なく突き立った。
次の銛を触手に握る。放った。
これが俺の戦い方だ。誰にともなく、タコワサは語りかける。
タコワサの身体は、戦士の中では小さくはないが、さりとてアカシのように大きくもない。力も他の戦士とさほど変わりはない。
俊敏さは他の戦士よりかなり優れてはいたが、それでも最優というわけではなかった。
タコワサが異種となったのは、投げ銛を握ったときからだ。
戦士になったものは皆、槍と同時に投げ銛の扱い方も学ぶ。今はなき一頭の老頭から、タコワサは投げ銛を教わった。
一点を決め、そこをめがけて、投げる。修練を積まねば、思うように当てることは難しい。教える老頭は、そう言った。
果たして、三投目までは、そのとおりであった。




