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第百二十七話 強欲

 柔らかきものどもの主だったものたちが集まり、今後について話し合っていた頃。

 長き殻どもの陣営もやはりまた、混乱のさなかにあった。

 分散させた群勢それぞれの小頭大頭から集められた報せを聞き、イセ族のフナモリは堅い脚を震わせ、オマール族のパエリアははさみで地を叩き、盛大に笑っていた。

「笑いごとではないぞ、強欲の。お主のクロトラ族は被害が少なかったからよかったものの」

「今度の敵はなかなかやるものだと思ってねェ。それに爺さんがいつも言ってる群略とやら。それが通じないってのは、笑えるじゃねえか」

「通じておらぬわけではない。敵の頭にも考えられるものがおる。それだけのことよ」

 そう返したが、フナモリは内心忸怩たるものがある。此度の戦、勝つには勝ったが、それはフナモリの群略によってではない。パエリアという強大な個体の力に寄ったものだ。むしろ群れ同士の戦といった部分では、負けたといってもよかった。

 フナモリが同族以外で初めて出会った、同程度の知力で競い合える相手だ。

 この相手とはもう一度正面から戦をしたい。フナモリは今、そう思っている。だが。

 視線を遠くへ移す。種族の別なく集められた死骸が、岩場に山を成していた。戦が終わっていくらかが経つというのに、水はいまだ濁り、広がる岩場も砂地も、激闘の痕跡をあちらこちらに晒している。

 これ以上の力攻めは無理だろう。そう冷静に考える己もまたいた。

「もうちょっと死んでくれりゃあ、ちょうどじゃねえか」

 そんなフナモリの内心を見抜いてか、パエリアが物騒な物言いをする。

「強欲の」

「わかってる。言ってみただけさ」

 パエリアが一度首から上をぐるりと回して、フナモリへ向きあう。

「だけどな、爺さん。もうまともなぶつかり合いはないだろうよ。逃げるぜ、やつら」

「やはり、そう思うか」

「さっきまでのがすべての戦力だとすりゃあ、それしかねえだろうな」

 パエリアの推測には、フナモリも同感だ。先の戦で、戦力を出し惜しみしていたとは考えにくい。ならば、柔らかきものどもに最早戦う力はないと考えてよい。

 そのようなときに種族が取る道すじは、いつだって一つだ。

「やつらはアタシが追うぜ。いいな」

「異存はないが、やけにこだわっておるように思えるな。何かあったのかね」

 二つの眼をせわしなく動かしつつ、フナモリは疑問を呈した。

 もともと感情の動きが激しすぎてわかりにくいパエリアの体表だが、敵そのものにこれほどこだわるのは常にないことだ。

 問われたパエリアは、イセ族であるフナモリですら恐ろしくなるような笑みを浮かべ、言った。

「どうしても腹の中に収めたいヤツを、みつけたのさ」


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