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第百二十六話 影

 だが此度ばかりは、アカシにもわかった気がした。マリネは、アカシがここに至ってなお、何をかを腹腔のうちに収めたままにしようとしていることに気付き、怒っているのだ。

「私は、お前とつがいになりたい」

 その言葉は、水を通じて、はっきりと、アカシに届いた。

「何を」

「何度でも言うぞ。アカシ。私はお前と、つがいになりたい」

 マリネの眼はまっすぐとアカシへ向いている。気の迷いでも何でもない。その身に何かを降ろしているわけでもない。マリネは正気だった。

 言いたいことが様々に浮かんでくる。だが、それらは何一つまとまらず、アカシの内側を渦巻いている。

「お前はどうなのだ、アカシ」

 そんなアカシに構わず、マリネが詰め寄って来る。常にないことだが、アカシは思わず下がった。だがそのぶんをやはり、マリネは詰めてきた。

「お前は、ツクダニと結ぶのだ。マリネ」

 それは大事なことだ。この道行きの間も。そしてたどり着いた果てでも。マリネとツクダニの結びつきは、マ族とワモン族の合一の証として、とても重いものとなるだろう。

 それを覆すことは、これからの道行きそのものを、危うくすることだ。種族を大事にするマリネにそのことがわからぬとは思わない。それがわかった上で、マリネは今、この言葉を吐き出しているのだ。

「私が聞きたいのは、そんなことではない。お前が私をどう思っているか。それが聞きたいのだ、アカシ」

 逃げられぬ、と思った。一度目を閉じ、覚悟を決めてから開いた。

「お前とつがいとなりたい。ずっとそう、思っていた」

 言った。

「そうか」

 砂煙が上がる。マリネが大貝の殻を脱ぎ、落としたのだ。

「だが今ではもう、叶わぬことだ。言っても仕方のないことだ。そう、思っていた」

「そうか」

 マリネの触手が伸び、アカシのそれに触れる。

「マリネ。お前はツクダニと、結ぶのだ」

「そうか」

 二つの吸盤が、密着する。

「ツクダニとの子は産む。だがアカシ、お前との子も、私は産む。両方産む。そう、決めたのだ」

 アカシが覚えているのはそこまでだ。

 己から、触手を伸ばした。八本のそれをすべて、マリネの体表に絡みつかせた。

 アカシの大きな肉体が、マリネの肉体を包み込む。

 ふたつの影が、ひとつになった。


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