第百二十二話 決意
ミズ族たちが去り、ツクダニも去って、場にはアカシとマリネとカルパッチョ、そして長老だけが残っている。
アカシと長老は見つめあったまま、しばらくそうしていた。
「長き殻どもは、我らを容易く逃がしてくれるだろうか」
ようやく、それを言った。アカシはすぐさま答える。
「決して、逃しはしないでしょう」
長老は続けざまに問いを放つ。
「やつらは、追って来るだろうか」
「我らがどこへ逃げたかを知る限り。どこまでも、追ってくるでしょう」
パエリア。オマール族の雌。あの雌が生きている限り、諦めることはしないだろう。どこまでも、どこまでも。すべてを腹の中に収めるまで、追いかけてくるだろう。
「ならば、敵を押し留めるものが必要だ」
「俺も、そう考えていました」
「そして、それは弱きものでは、務まらぬ」
「俺も、そう考えます」
そこで長老は視線を下げたが、何かを決めたように、改めてアカシへ向き直った。
「……やってくれるか、アカシ」
「もとより、そのつもりでした」
俺は旅立たぬ。ここで、決着をつける。
パエリアの叫びを聞いたときより。アカシはそう、腹のうちで決めていた。
俺が逃げれば、パエリアはそのすべてをもって追って来る。必ずだ。
ならば、俺が皆と一緒に旅立つことは、できぬ。
「先の戦いで、敵の数は減らしました。だが、それでもまだやつらは多い。多すぎる。ここで減じておかねば、禍根となりましょう」
「で、あろうな」
長老が体表を歪ませた。
「……やってくれるか」
「もとより、俺の役目であると思っています。何頭かの戦士を連れてゆきます。長老は、すぐに族民たちの取りまとめを」
アカシは伸び上がった。槍を取り、長老に背を向け、歩き出す。
これでいいのだ。そう思っていた。
柔らかきものどもは、旅立つ。それはおそらく、新たな種族のはじまりなのではないか。アカシはそう、感じた。
その中で必要となるものどもがいる。そして、不必要なものどももいる。
俺はもう、このうねりの俺から、変わることはできぬ。
アカシは戦士だ。共に旅立てば、その道行きでは、役立つだろう。敵を追い払い、獲物を集めることも、できるだろう。
だがその先に、何があるのか。




