第百二十一話 宣託
「だが今生きているわたしたちは、生きていけないかもしれない。そうだね」
「たこにも」
「そして、ここにいるものすべてが生きてそこにたどり着けるわけでもない。そうだね」
「たこにも」
ミズ族たちと長老が、睨み合い、視線をぶつけあった。
「それでも、そこへと向かって旅立つっていうのかい」
「もはや、迷っている状況ではない。我らの伸ばせる触手は、すでに八本ではないのだ。そしてうねりを経るごとに、それはさらに減ってゆくだろう」
アカシは頷いた。残されたうねりは少ない。少しでも早く、動くべきときであった。
「ゆくべきだ」
それまで黙って一言も発さなかったものが、口を開いた。
マリネだ。
「マリネ。あんたまでそんなことを」
「ゆくべきだ。生き残るのは、今の私たちではない。種族だ。マ族とミズ族とワモン族という、種族だ。そこを、違えるな」
マリネが位置をずらす。長老と相対する。
「種族としてなら、生き残る巡りがある。そう考えるのですね、長老は」
「たこにも」
「ならば、ゆくべきだ」
マリネの瞳が水を受けて輝いている。その目は、マリネが舞っているときと同様のものだ。
ゴマミソアエとミズ族の長老たちが、僅かに後ずさったのをアカシは認めた。
「決まりだ。我々は、乾いた土地へ向けて、旅立つ。これ以上の意見は許さぬ。よいな」
アカシと、そしてツクダニが賛意を示すよう大きく頷いた。戦士を束ねる二頭が認めたのであれば、匠頭を束ねるミズ族の長たちとて、強く反対はできない。
他の触手を見せることができぬのであれば、なおさらだ。
「すぐに取りかかるぞ。ゴマミソアエたちは、すぐにミズ族のものどもを取りまとめてくれ。持ってゆく道具、置いてゆく道具を選ぶのだ。多くは運べぬぞ。泳ぎが遅れる」
「……承知した」
「ツクダニ殿はワモン族の方を任せる」
「それはよいが、旅立つ前に我々の集落に寄っていただきたい。我らの種族も、連れてゆくのだろう」
「もちろんだ。ワモン族の集落まで下ってから、西へと向かう。そうしようと思っておる」
「ならばいい。話をしてくる」
ツクダニは素早く触手を伸ばすと、砂煙と共に消えた。何度目にしても驚きを覚えるほどの隠遁だ。
「そしてアカシ、お主に頼みがあるのだが」
長老がアカシの方へ、胴を向けた。




