第十二話 南岸戦争
アカシたちが住むマ族の集落は、マ・リネリス渓谷の南にある。南の地は谷とはいわぬまでの小さな断層が無数に走り、岩地と砂川を形づくっている。穴ぐらを好むマ族たちにとって住みやすい土地である。
もともとは渓谷の南岸に集落を構えていたのだと、長老たちから伝え聞いている。マ族という族名は、マ・リネリスに住んでいたからこそついたのではないか、というのだ。今いる土地にもともと住んでいたのは、ミズ族とイワツノ族だ。
ミズ族は同朋であるし、イワツノ族は土地というものに執着しない。定着は、平和裏に行われたと思われる。
だが、食物や貝、珊瑚が豊富なのは、やはり渓谷の周辺であった。
現在の集落は、決して豊かとはいえない。貝も珊瑚も必要なだけは手に入らないし、魚の群れが少ない時期には餓死する幼生も出る。
その厳しさから抜け出すために、危険を承知でマ族の戦士や狩人は北へと触手を伸ばす。そうして、一帯に居を構えているタラバ族たちと遭遇することになる。
タラバ族は身体が大きく、殻持ちたちの中でも己たちが上位種だと思っている。事実、彼らの同族にアブラ族やハナサキ族といった殻持ちの一族があるが、タラバ族は総じて彼らより凶暴で、戦に長けている。イワツノなどの別種だけでなく、いくつもの同族をも傘下に収めていた。
そんな彼らであるから、殻なしのマ族などは、はじめから蔑視している。交渉の余地などなかった。
渓谷南岸の資源を争って、タラバとマ族の長い戦がはじまった。
根本的な種族の差として、マ族はタラバ族に敵わない。だから、マ族は様々な工夫をした。
貝や石を尖らせて武器をつくり、海藻で繋いで防具をつくることで、戦う力を増した。三頭で一頭に当たる「隊」をつくることで、力の均衡を図った。
決して正面から当たらず、資源が足りなくなったときだけ、隠密的に谷に侵入し、資源だけを奪う戦い方を身に付けた。
そうして、細々とタラバの力を削ぎつつ、戦いを続けていたのだ。それは、圧倒的な力を前に、一筋の光明を見つけ、たどっていく。そういう戦いだった。
何より。タラバたちはマ族の存在を知った。放置しておくとは思えない。
攻め込ませるだけの余力を、決して与えない。そのための戦いでもあった。




