表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/148

第百十八話 ひとり

 誰もが何も言えず、沈黙している。さしもののアカシも、この発言には驚いていた。

 同時に湧き上がってきたのは、カルパッチョという雌に対する、ひとつの理解だった。

 ああ、そうか。

 カルパッチョ。お前はどこまでも、ひとりなのだな。

 ただ一頭。この地で生きるメン族というものを小さな背に負って、カルパッチョは生きてきたのだ。最も弱きものであるという周囲の認識を受けながら。その中で様々なものを騙し、受け流し、すり抜けながら、このうねりまで、生きてきたのだ。

 彼女にとっては周囲の誰もが、己より遥かに強い捕食者だ。

 カルパッチョというメン族のことがわかるものなど、ただ一頭たりとも、いない。いなかったのだ。

 そのような環を、カルパッチョ。お前は泳ぎ、生きてきたのだな。

 アカシは、触手で地を叩いた。全員の視線がアカシの方に向く。それを認めてから、口を開いた。

「カルパッチョの言には、認めるべきものがある、と俺は思う。南へ逃げることはよい。だが、それだけでは、生きのびるうねりを少し伸ばすだけなのだろう。それからどうするのかも、考えておかねばならぬ、ということだろう」

「たこにも」

 真っ先に応じたのは、ツクダニだった。受け入れるか否かを決める力を持つのはツクダニだ。彼に認めさせねば、争いなく波水を立てずに移住することは難しいだろう。

「ふむ」

 それまで黙って皆の意見を聞いていた長老が、触手を上げて注目を集める。

「それらのことから、はっきりとしていることを、私から皆に述べておこう。すべてのことを考え、思案した上で判じたことだが。今や我ら柔らかきものどもがこの地で生きていくことは、難しいことだ」

 何頭かの老頭が長老の言に応じて、伸び上がる。体表を赤く染めたそれらを、長老は触手で制した。

「これは疑いないことだ。お主らとてまったくわかっておらぬわけではなかろう。認めよ。でなければ、話が進まぬ」

 長老が諭す。老頭たちは、とりあえずは、というかたちで席に戻った。

 長老が話を継ぐ。

「もとより危うい状況の中で、何とか守ってこられたのだ。それが崩れれば、いられなくなるのは、道理よ」

 そうして、ワモン族の若長の方を向く。

「これは、我らだけでなく、ワモン族とて同じこと。いや、この地に棲むほとんどすべての種族がそうであろう。はたして、あの長き殻どもの群勢に討ち勝てる種族が、この地にいるかな」

 だれもが言葉を発しない。長き殻どもの恐ろしさを間近に見て知ったばかりだ。特にパエリアを見たならば、勝てるなどとは決して思わぬだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ