表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/148

第百十四話 遺棄

 マ族と多種族の連合群は、集落を捨てた。

 集落の族民と、長き殻どもに敗れた戦士たちは、ミズ族の集落へと退き、集結している。そしてそこでも、慌ただしく脱出の方策が話し合われていた。

 カニカマを連れて、アカシもミズ族の集落まで戻ってきた。一泳ぎ早く退却した戦士たちは、タツタアゲの下で再編が行われている。

 アカシがゾウスイたちと三頭でパエリアと向かい合ったときに、ウスヅクリはすぐさま、タツタアゲに戦士たちの束ねを任せたのだそうだ。はじめから一緒に、戦うつもりだったのだろう。

 おそらくだが。アカシがカニカマに対して抱いたようなものを、ウスヅクリも持っていたのではないか。そのような気がする。

 ウスヅクリが、こころの底にタラバ族に対する深い憎しみを持っていたことは知っている。そのウスヅクリが、というのは常ならば考えられぬ話だ。

 だが実際に、あの老頭はタラバ族の若者を鍛え、己の命を散らしてまで助けた。

 それを、どう考えればよいのか。

 こころというものが、わかりやすいものでないことは、アカシとて理解している。ウスヅクリがそうしたことには、きっと様々な思いがあるのだ。そしてそれは、ウスヅクリにしかわからない。

 アカシはそれを慮ろうとすることをやめた。

 ミズ族の集落、その入口付近に、戦士たちは集められている。その先頭に立つタツタアゲより報告を聞いた。

「生き残ったのは八十八頭。そのうち戦えそうなのは、六十頭ほどです」

 半数の戦士がこの戦いで、失われたと。タツタアゲは、そう告げていた。

 最早、殻持つものどもとぶつかり合える状況ではない。そういうことだった。

「厳しいな」

「たこにも」

 たとえ百二十頭が八全に揃っていたとしても、パエリア一頭にすら勝てぬかもしれぬ。その想像は、己の腹腔のうちに飲み込んだ。

 勝てぬやもしれぬ。そんなことは、わかっていたことではないか。

 わかっていながら。それでも生きる道すじを見つけるため、アカシたちは槍を取ったのだ。

「戦士たちの食糧はどうだ」

「副官どのが、仕留めたクロトラ族どもを集落まで引き込んでくれました。何とかなると思います」

「それはよい知らせた」

 別群を潰しに行ったタコワサたちは、うまくやったらしい。

 広場をぐるりと見回して、目当ての、斑のやや多い体表を見つけた。

「ここは任せる」

 タツタアゲに告げ、そちらへ向けて泳ぎ出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ