第百十四話 遺棄
マ族と多種族の連合群は、集落を捨てた。
集落の族民と、長き殻どもに敗れた戦士たちは、ミズ族の集落へと退き、集結している。そしてそこでも、慌ただしく脱出の方策が話し合われていた。
カニカマを連れて、アカシもミズ族の集落まで戻ってきた。一泳ぎ早く退却した戦士たちは、タツタアゲの下で再編が行われている。
アカシがゾウスイたちと三頭でパエリアと向かい合ったときに、ウスヅクリはすぐさま、タツタアゲに戦士たちの束ねを任せたのだそうだ。はじめから一緒に、戦うつもりだったのだろう。
おそらくだが。アカシがカニカマに対して抱いたようなものを、ウスヅクリも持っていたのではないか。そのような気がする。
ウスヅクリが、こころの底にタラバ族に対する深い憎しみを持っていたことは知っている。そのウスヅクリが、というのは常ならば考えられぬ話だ。
だが実際に、あの老頭はタラバ族の若者を鍛え、己の命を散らしてまで助けた。
それを、どう考えればよいのか。
こころというものが、わかりやすいものでないことは、アカシとて理解している。ウスヅクリがそうしたことには、きっと様々な思いがあるのだ。そしてそれは、ウスヅクリにしかわからない。
アカシはそれを慮ろうとすることをやめた。
ミズ族の集落、その入口付近に、戦士たちは集められている。その先頭に立つタツタアゲより報告を聞いた。
「生き残ったのは八十八頭。そのうち戦えそうなのは、六十頭ほどです」
半数の戦士がこの戦いで、失われたと。タツタアゲは、そう告げていた。
最早、殻持つものどもとぶつかり合える状況ではない。そういうことだった。
「厳しいな」
「たこにも」
たとえ百二十頭が八全に揃っていたとしても、パエリア一頭にすら勝てぬかもしれぬ。その想像は、己の腹腔のうちに飲み込んだ。
勝てぬやもしれぬ。そんなことは、わかっていたことではないか。
わかっていながら。それでも生きる道すじを見つけるため、アカシたちは槍を取ったのだ。
「戦士たちの食糧はどうだ」
「副官どのが、仕留めたクロトラ族どもを集落まで引き込んでくれました。何とかなると思います」
「それはよい知らせた」
別群を潰しに行ったタコワサたちは、うまくやったらしい。
広場をぐるりと見回して、目当ての、斑のやや多い体表を見つけた。
「ここは任せる」
タツタアゲに告げ、そちらへ向けて泳ぎ出した。




