第百十一話 暴れ水
カニカマが棒を突き出す。叩くのでは通用しないと考えたようで、槍のように突き込む。だがそれも、はさみによって掴まれた。
そのまま持ちあげられ、振り回される。棒をはさみから離したカニカマが落ちてくる。
間隙を縫ってゾウスイが踏み込んだ。下から上へ、刀を振るう。紫の殻を滑って、傷を与える。
怒れるパエリアが逆のはさみを振り下ろす。それをやはりゾウスイがはさみで受け止める。受け切れず、ゾウスイが下がった。
パエリアのはさみを足場にして、アカシは跳んだ。狙うのは、パエリアの目だ。
全力で槍を突き出す。
それをパエリアは首を振り、顔の側面で受け止めた。堅い殻は、やはり貫けない。
おのれ。
パエリアが顎を開く。触手を翻して跳び退く。
そこに踏み込む影がある。ゾウスイだ。
「このときを、待っておったのよ」
刀を横に薙ぐ。そこにはパエリアの顎がある。この巨大な長き殻は、全身を堅牢な甲殻に覆われている。アカシの槍も、ゾウスイの刀でさえ、それには通じない。
だが、その殻の内側はどうか。
パエリアの体液が、はじめて水に混じる。顎の端を、ゾウスイの刀が切り裂いたのだ。その瞬。その場。まさにそれを捕えた一撃だった。
振り抜いた刀を逆に返そうとはさみを回す。だが驚くべきは、パエリアだった。
傷をものともせず、顎とはさみを進ませてくる。
両のはさみが、ゾウスイの脚を掴む。顎が、半身に喰いつく。
そのまま、引きちぎられた。
顎とはさみが持ち上げられる。半分になったゾウスイの身体も、一緒に水中を舞い、散らばった。
最早どう見ても、生きてはいない。
持ち上がった赤い殻が、パエリアの顎の中へ消えてゆく。そして、見えなくなった。
アカシは、傍に転がっていたカニカマを槍で叩いた。カニカマが何とか起き上がる。
「ゾウスイ殿が喰われた。退くぞ」
カニカマに声をかける。カニカマの体表は、まだ朦朧としているように見える。
飛ばされ転がったゾウスイの刀が、カニカマの傍らに転がっていた。
タラバ族の若者は、迷わずそれを拾い上げた。
「いかん、カニカマ。退け」
刀を構えたカニカマが、じりじりとパエリアに寄ってゆく。パエリアの目がぎろりと動き、カニカマを見下ろした。
カニカマが刀を構える。体液を流しながらも大きく開かれた化け物の顎が迫った。




