第百十話 鳴動
パエリアがはさみを地に叩きつけた。
岩が割れ、砂煙が盛大に舞う。割れた岩を避けるため、アカシは円を描いて泳ぎ逃れる。
ゾウスイも半身になって岩を避けている。カニカマだけは、構わずに棒を振るって突進した。
タラバの甲殻を重ねて身に付けたカニカマは、飛ぶ小岩を受けてもものともしない。棒を振り上げ、振りおろした。
パエリアは脚の一本を用い、払い除ける。タラバ族であるカニカマが、軽々と跳ね飛ばされる。脱殻を重ねていないカニカマでは、打ち合うには重みが足りない。
ゾウスイが踏み込んだ。上から下へ、刀を一閃する。
堅い音が響く。ゾウスイの一撃が、受け止められている。パエリアのはさみだ。立ち塞がるものすべてを両断してきたゾウスイの技が、はじめて受けられるのをアカシは見た。
「いいねえアンタ。アタシ、傷モノにされちまったよ」
はさみの表面には僅かながら傷が走っている。
もう片方のはさみがゾウスイに迫った。
岩を抉りながらはさみが振り抜かれる。そのすれすれを、ゾウスイは潜った。
刀が振るわれる。
身を翻したのはパエリアの方だ。多数の脚を動かして、その一撃を機敏に避ける。ゾウスイの甲殻に、驚きが露わにされる。
横滑りした堅い脚の塊が、ゾウスイに迫る。
アカシは飛び泳いで、そこに槍を突き出した。
堅い感触。アカシの力と赤珊瑚の大槍をもってしても、貫けぬ甲殻。
化け物め。
だがその一撃で鈍った隙に、ゾウスイは脚から逃れた。アカシもすぐさま距離を取る。
「ふむ。確かに、もう一度ほど殻を脱ぎ捨てねば、難しそうだのう」
「お主ほど巡りを経てはもう、難しいのではないか」
「なあに、これでもまだ、若いつもりよ」
互いに並んで、槍と刀を構える。ようやく起き上ったカニカマも、よろよろと二頭の方に寄って来た。
他の長き殻どもは、やはり攻め寄せて来ない。もちろん近づいてきたならば、巻き添えを食うことは否めぬだろうが。
アカシたちもここは退くべきだ。だが。
ゾウスイは決してここを退かないだろう。
ならばここは、この化け物をここで討ち倒すことを考えた方がよいのか。
槍を構える。眼前には岩壁のごときパエリアが立ちはだかっている。
ゾウスイとカニカマが再び突撃した。アカシも続いた。
パエリアも動く。地と水が鳴動する。
種族の違う四頭が同時に吠えた。




