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えびせん Good Morning,MARS  作者: 大嶺双山
第三幕 戦
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第百九話 名乗り

 アカシの叫びとほぼ同時に、まだ命を保っている戦士たちが後退してゆく。多くのものが岩場に倒れ伏し、壊された殻盾や長槍が散らばっている。

 勝てぬ。何をかを思案する間も置かず、アカシはそう判じた。今できることは、ただ一頭でも多く生かして逃すことである。

 アカシはただ一頭、槍を構えて前方へ躍り出た。

 左右に従うものがいる。ズワイ族のゾウスイと、タラバ族のカニカマだ。

 この二頭の巨体であれば、いくらかは勝負になるやもしれぬ。だが。

「ゾウスイ殿、退いてくれ。真正面からでは勝てぬ」

 返って来たのは、いつもの笑みだった。

「おいおい。わしの楽しみを奪ってくれるなよ、大頭殿」

「だがここでお主に倒れられては、我らに勝ち目はない」

「そいつは、そなたらの都合というものよ。わし抜きで、何とかなされよ」

 そう言い放つと、刀を構えて、アカシの前へ出る。

「これだ。こういうものと、わしは戦ってみたかったのよ」

 ゾウスイの前に、巨大な、あまりに巨大すぎる長き殻どもの姿がある。その長き殻どもも笑みを浮かべた、ように見えた。

「へえ。なかなか殻のあるものがいるじゃねえか」

 こやつ、雌か。その声を聞いて、アカシは思った。そういえば、雌の方が大きく成長する種もあるのだ、と、何かの折に聞いたことがあるような気もする。言っていたのは長老だったか。カルパッチョだったか。

 槍を構え、ゾウスイの隣に並ぶ。逆隣には、カニカマが追い付いている。その瞳はやはり、憎悪に曇っているように見えた。

「名を、聞いておこうかねぇ」

 それはそれは楽しそうな声音で、雌の長き殻が問いかける。ゾウスイがやはり嬉しそうに名乗りを上げた。

「ズワイ族鋏客、シメノ=ソウスイ」

「タラバ族戦士、カニカマ」

「……マ族の戦士、アカシ」

 殻持つ者たちに続けて、仕方なくアカシも名乗りを上げた。

 ちらりと後方に視線をやる。この隙に、戦士たちは退却を続けている。長の命が下っているのか、クルマ族とクロトラ族は追撃をかけていない。それよりも死骸を回収するのに、意識が向いているように思えた。

「オマール族の、パエリアだ。まあ、覚えておきな」

 だが、と言って、とてつもなくいやらしい笑みを浮かべる。アカシにもわかった、恐ろしい笑みだ。

「いつまで覚えてられるかは、てめえら次第だ」


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