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えびせん Good Morning,MARS  作者: 大嶺双山
第三幕 戦
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第百八話 蹂躙

 タコワサたちがクロトラ族の一群と銛を交えていた頃。

 北の戦場では状況が一変していた。

 攻め寄せていたクルマ族どもが一斉に退き、道の中央を大きく空けている。

 そこに、これまで見たこともないような巨体がゆっくり、ゆっくりと脚を進めてきた。

 丸みを帯びたナダラカな甲殻。黒とも赤ともつかぬその色に全身は覆われている。遠目に見ても、その厚さ、堅牢さはクロトラ族やクルマ族とは比べ物にならない。

 そして何より目を引くのは。前方に突き出された、とてつもなく大きな一対のはさみだ。その大きさもやはり、タラバ族とも、そしてズワイ族であるシメノ=ゾウスイのものとも比べ物にならぬほど大きく、太いのだ。

 それが、クルマ族の群れを左右に傅かせて、迫って来る。

「何だ、あれは」

 アカシの口から、思わず声が漏れた。何だあれは。何だ、あの巨大な種族は。

 言われなくともわかる。あれこそが、長き殻どもの長なのだろう。

「盾を並べよ。長槍、一箇所に集え」

 群れを密集させる。ただ突いただけでは、あれは止められぬ。そう感じたのだ。

「頭か脚を狙え。来るぞ」

 巨大な長き殻の片側の脚が持ち上がる。降ろされる。

 地の震えと同時に、砂煙が高く上がる。

 それを切り裂いて。巨体が疾走をはじめた。

 多数の脚が地面を叩き、地と水と戦士たちのこころを震わせながら、坂を登って来る。仕掛けは意味を成さない。巨体が通ったあとの道は、砂が深く抉れている。

「構えよ」

 号令と共に、槍先が揃えられる。坂道の先から、巨大な二つのはさみが突き出された。

「突け」

 アカシの命が発されるのと、はさみが振るわれるのと。どちらが先だったろう。

 前列の盾を持つ戦士たちが、水中を舞っていた。一頭残らずすべて。ただ一振りで、薙ぎ払われた。

 突き出された長槍は、ほとんどがはさみに衝突した。そのすべてが、ヘし折れた。

 はさみがもう一度、薙ぎ払われた。残ったすべての戦士たちが、散り散りに飛んでいった。

 何なのだ、これは。

「退却」

 即座に、大声で言い放った。

 これは、違うものだ。戦いとか、争いとか。互いに食い合うこととか。そういうものとは、まったく違うものだ。そんな思いに、捉われていた。

 環が、マ族を滅ぼさんと形を成している。そうとしか、思えなかった。


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