第百七話 光明
雌の戦士たちとタコワサの配下の戦士、そしてワモン族の戦士たちが、残る長き殻どもたちに攻勢をかける。
長き殻どもの体力は凄まじい。ここまでの長駆、そして休まずの戦いにも関わらず、その勢いに衰えは見えない。
多少優勢になったとて、気を抜くものなど、戦士たちの中にはいない。
タコワサは隊より離れて、クロトラ族の死骸へと泳ぎ近づく。素早く、回収できるだけの銛を背に括りつけた。
前進しながら触手に持つ銛を放つ。頭を狙ったつもりのそれは、胴に当たった。アヒージョに食らいつこうとしていたそれは、水中で体勢を崩す。そこへアヒージョは鋭く槍を抉り込んだ。
触手が欠けて、狙いがつけにくくなっている。身体の重みが変わったのだ。タコワサの正確無比な技前は、失われたといってよい。
だがそれでも。投げ銛の技こそが、タコワサの存在意義であり、矜持でもある。
重みの偏りを思い出す。銛を一本抜き出し、投げた。それは泳ぎゆく一頭の、頭部と胴の継ぎ目に突き立った。
もう一本を抜き、マリネの方へ向かう一頭へ投げた。
今度は過たず、素早く泳ぐ一頭の頭部を、左から右へ貫き仕留めた。
「触手を失い乱れるようで、何が名手か」
タコワサに気付いた一頭が、顎を開き襲いかかってきた。
一本を抜き、水中に浮かべる。シオカラがつくった、五本刃の銛だ。
六本になった触手を大きく捻る。
後端を打った。八本の触手に違わぬ勢いでそれは飛び、化け物の口中を刺し貫いた。
戦場を見渡す。クロトラ族は、逃げにかかっている。それをマリネとアヒージョが、容赦なく追撃していた。
「決したようですな」
戦士の一頭が、タコワサに寄って来た。
「地形を知られたくない。すべて仕留めるのだ。肉は集落に。これだけあれば、五うねりは籠れるだろう」
「たこにも」
戦士の後を追って、タコワサも追撃に加わった。勢いを失ったクロトラ族は存外に脆い。タラバ族よりも手強いと思われていたこの種族だが、守りに入ることは得手ではないのだ、とタコワサは感じた。
一気呵成に攻め寄せる。そういうことが、できていた種族なのだろう。
それを今、一部であるとはいえ、柔らかきものが弾き返した。一時であれ、守勢に回らせた。
光明。水の薄き場所から、時折、まばらに差すもの。クロトラ族の死骸転がる戦場に今、それが差していた。




