第百六話 援群
戦場を眺める。七頭ほどは仕留めただろうか。だが敵の圧力は減じていない。何とか有利に戦えているのは、こちらが高所を取っているからだ。
こちらの戦士は皆が皆、傷を負い、疲労している。このまま戦い続ければ、全滅は必至だろう。
だが。
タコワサはわかっている。ここにいる戦士たちは誰も、己が生きて帰るとは思っていないのだ。この群れを集落に入れるということがどういうことか、わかっているのだ。
だからこそ、この少数で、ここまで凌げている。
しかしそれでも、限界は来る。そしてそれは、もうすぐだった。
クロトラ族たちの連携も、統率のとれたものだ。深い傷を負ったものを後方に下げ、無傷の個体を前面に押し出してくる。そして、はじめの一隊が喰われたときのように、二方向から挟み込むように攻め入って来るのだ。
俊敏さでは柔らかきものどもが勝るため、未だ敵に取り込まれてはいないが、疲れてくれば、そうもゆかぬだろう。タコワサを含め多くのものが、触手の数本を失ってもいる。
あと一度か。そう判じた。
あと一度の突撃。その後に、タコワサたちの守りは崩れ、岩から砂へと化すだろう。
敵の群れが列を整える。じりじりと近づいてくる。タコワサは銛を握り直し、突撃の命を下そうとした。
そのときだ。
近くの岩壁から、影が飛びあがった。タコワサたちよりさらに上。岩壁から離れた影たちが、吠え猛りながら降下してくる。
その先頭。貝の殻を被り、四本持ちの大槍を携える姿。
マリネが、タコワサの傍をすり抜けていった。
クロトラ族が顎を伸ばす。貝殻を使い、滑らすように受け止める。そのまま回るように。貝の棘で顎の周辺を傷つけながら、マリネが舞う。
甲殻の隙間に槍を突き込む。クロトラ族が痛みを感じたときには、既に離れていた。
暴れる先頭のクロトラ族に、後続の戦士たちが大槍を突き込んでゆく。その中に、アヒージョの姿も認めた。
マリネ率いる雌戦士たちの一群が、到着したのだ。
水中を舞うようにして、マリネがクロトラ族たちに傷を与えてゆく。そこへ、戦士たちが、貫通力の高い大槍でもって襲いかかってゆく。
タコワサの視線は、マリネに吸い寄せられる。己がこころに抱く勇士の姿が、そこにはあった。
「雌たちに後れを取るな」
銛を握って飛び出す。形勢は覆った。クロトラ族は驚き、乱れている。討ち滅ぼすのは今だった。
「一頭たりとも、生かして帰すな」




