第百五話 奮戦
新たに二頭のクロトラ族が、戦士たちに顎を向ける。
戦士たちは銛を握り、三頭で固まる。その一隊を挟み込むように、クロトラ族が動いた。
銛を突き出す。だが、その程度でひと回り大きな長き殻どもは止まらない。
一頭を多数の脚で抱え込む。それから、胴に齧りついた。もう一頭も戦士を捉え、脚を振り回している。
瞬く間に、一隊が喰われた。
タコワサは素早く泳ぎ離れ、仕留めたクロトラ族の死骸に近づく。その頭部から銛を引き抜き、投擲した。
銛は背に当たり、滑ってゆく。傷は残したが、致命傷ではない。
その隙に、ワモン族と残りの一隊は、クロトラ族の群れから離れ、岩壁に張り付いた。
「銛はあと何本ある」
合流したタコワサが問う。二本、一本、という声が返ってきた。
「一本を残して、すべて放て。その後に、突貫する」
クロトラ族が群れを崩さず岩壁を登って来る。その速度は鈍い。こちらへ引きつけたぶんだけ、集落の危機は去るだろう。
幸いにも、敵はこちらをすべて食べてから、先へ進むことに決めたようだ。
ならばこちらも、一頭でも多く狩るのみ。
「放て」
銛が投射される。僅かであるが列を崩し、何頭かが壁を離れて落ちてゆく。
「突撃」
叫びを上げながら、戦士たちが降下する。登り来るクロトラ族の頭部に銛を突き立てる。タコワサも一頭の目を狙い、銛を突き込んだ。
大した傷は与えられない。投げて使える銛はない。小さな傷を少しずつつけ、消耗させて殺すしかない。
だが敵は、ただひと咬みでマ族を喰い殺せるのだ。
戦士たちとワモン族は見事な連携で、小さな傷を与えてゆく。だが、クロトラ族は怯まない。
顎が咬み鳴らされる。ワモン族とマ族の一頭ずつが、触手の数本を持ってゆかれた。
銛を振り、捕まった二頭を援護する。その横手に、クロトラ族の顎が伸びてきた。
触手を掴まれる感触。咄嗟に、切り離した。
クロトラ族の顎が、やや斑の多い白っぽい触手を二本、くわえている。その開いた隙間に、全力で銛をねじ込んだ。
「触手でよいなら、くれてやる」
手近なクロトラ族の背から、強引に銛の一本を引き抜いた。触手は六本になった。だが、まだ戦えぬわけではない。
「ただで喰われてやると思うなよ、化け物ども」
タコワサは吠えた。




