第百四話 射手
僅かに砂煙を上げつつ、クロトラ族が迫って来る。獲物に喰いかかるときほどの速さではない。あれはあれで、忍んで近づいているつもりのようだ。隠遁には向かぬ種族であるというのが改めてわかる。
はじめに侵入を果たしたクロトラ族は、相当の上手であったようだ。アカシは騙せなかったようだが。
群れが、銛の届く距離に入った。
「放て」
最前列の個体に向けて、銛が投射される。高所から投擲された銛は、勢いを増して飛び、無防備なクロトラ族の群れを襲った。
前を蠢く二頭の叫びが上がる。そのときにはすでに、戦士たちは岩壁を離れている。
銛を投射しながら、水中を降下した。
群れの動きは止まっている。マ族の戦士たちは一方的に、長き殻どもの甲殻に銛を突き立てる。
三頭のクロトラ族が、顎を向けて水中に躍り出た。
タコワサは背の海藻を解いた。背負っていた銛が散らばり、水中に踊る。
柔らかき身体を活かし、限界まで捻る。
勢いをつけた触手で、落ちゆく銛の後端を叩いた。
強く押し出された銛が、水を切ってクロトラ族に飛ぶ。五つの刃が合わさった銛先は、一撃でクロトラ族の頭部甲殻を砕き、貫いた。
一つ。
次の触手で、隣を落ちる銛を叩く。まっすぐに飛んだ銛は、やはり過たずクロトラ族の顎に飛び込んだ。
二つ。
戻る力を使って、身体を逆に捻る。三度目の触手を、叩き出す。
撃ち出された銛は、残る一頭の頭部をまたもや破砕した。
三つ。
落ちてゆく残り一本の銛を、二本の触手で掴んだ。
状況を認めたクロトラ族が、泳ぎ襲い来る。地に脚がつかぬ水中戦であれば、まだしも分がある。
三頭一隊。マ族の戦士が素早く固まる。
ワモン族が飛び出た。
泳ぎ来る先頭のクロトラ族とすれ違い、散開する。クロトラ族の脚が千切れ、水中を舞う。
ワモン族の戦士たちの触手には、刃物が握られている。すれ違いざまに、切ったのだ。
もだえるその一頭に、マ族の戦士たちは触手にした銛を突き刺した。
戦士たちが離れる。クロトラ族が落ちてゆく。
だが荒ぶる次の一頭が、戦士たちには迫っていた。




