第百三話 脚留め
マリネたちと別れ、南門へ泳ぐ。そこにはすでにワモン族の一団が到着していた。
軽く礼を交わしてから、状況を聴いた。
「集落の西側を回っているようだな。さすがに、泳いでは越えて来ぬようだ。どうするのだ。南門で叩くのか」
「いや」
集落の東西には高い断崖が切り立っている。泳いで上を越えられぬことはないであろうが、それはとてつもなく困難なことであろうと思えた。断崖は水の薄い領域にまで及んでいる。この集落を構えたときに、先頭たちが命を賭して調べたことだ。
「あまり近づけたくはない。でき得るだけ遠くで、潰したい」
「承知した」
配下たちに命を下す。ここから先は泳がず、岩壁に張り付いて進む。敵はすべて小型のクロトラ族。正面からの突撃ができる地形でもない。マ族本来の戦い方で狩り取るつもりだった。
南門に海藻で括って束にした銛が積んである。
「ケンサキ族の匠頭からだそうだ。おそらく長き殻どもにも届くだろう、ということだ」
一束を触手に取る。どれもが赤茶色い。タラバ族の殻を削ってつくったもののようだ。集落の壺に使っていたものを回したのだろう。
北壁で使ったものとは違い、それはきちんと投げ銛の形に加工してあった。銛先は、銛というよりも刃のついた槍のようになっている。そして、たまに見かける、まずい肉を持つ五本脚の柔らかき獲物のような形をしていた。
「かたじけない」
戦士たちがそれぞれ一束ずつを背に担ぐ。つれてきた六頭はどれもが、タコワサ自らが鍛えた名手たちばかりだ。力を発揮できるだろう。
全員が岩壁に張り付き、すぐさま体表を壁の色に合わせる。
「行くぞ」
号令と共に、群れが動き出した。
岩壁を這って北へと動く。ワモン族も三頭がタコワサに従いついてきている。その隠遁はマ族に勝るとも劣らない。
しばらくは何もなかった。だが。
「いたぞ」
砂地を蠢く一群がいる。黒い縞の甲殻を纏った、細長い姿。
クロトラ族。数は二十七。
九頭の柔らかきもので相手をするには、危険すぎる群れだ。だが、味方の合流を待てば、集落への接近を許してしまう。
脚を、留めねばならぬ。
「構えよ」
背から銛を一本抜き出しつつ、タコワサは発した。




