第十話 遭遇戦
「受け止めるな。勢いを逸らせ」
戦士たちに告げて、前へ出た。槍をぐるりと回転させる。
タラバたちを追い回してきた化け物どもである。強大な力を持っているのであろう。この場所では、マ族特有の戦い方はできない。厳しい戦いになることは、疑いなかった。
だが。
身体の芯が熱を持っている。アカシは戦士だ。見知らぬ敵と相対するとき、そのこころは、今までにない戦いを求め奮い立っている。
巨体が突進してくる。先頭を蠢く一頭のはさみが突き出された。
先ほどの若いタラバ族のものとはまったく違う、速く鋭い一撃だ。
槍の穂で滑らせる。そのまま一歩を踏み込んだ。三本の脚を伸ばし、化け物の前足を絡め取る。
重い。
押し返すのはあきらめた。頭を右に逸らせる。海藻をなぎ倒しながら、巨体の列が通り過ぎてゆく。
「退くぞ」
戦士たちが墨を吐き出し始めた。波が墨に舞い、森に広がる。黒色にまぎれて、タラバたちを守りながら来た道を引き返す。
化け物たちが吠えている。あらぬ方向の海藻がなぎ倒されていくのが見える。
静かに、アカシたちは退いていった。
群れで槍の形をつくり、水を切って森からの撤退を図る。全力で逃げるマ族に追いつける種族は少ないが、中にタラバどもを抱えているため、常の半分ほどしか速度は出ていない。
だがそれでも、この度は何とか逃げ切れそうであった。
「大頭。もしやあれが」
隣に来たタコワサがアカシに問うた。
「おそらく、間違いなかろう。知っている種族か」
「いえ、私もはじめて見ました」
遠く後ろに黒い墨が広がっている。あの向こう側では、あの化け物どもがまだ暴れているのであろうか。
「まずは長老に知らせる。こやつらからも、色々聞きださねばならん」
タラバたちを一瞥した。
「厳しい戦になりそうですな」
「なるだろう」
己が笑みを浮かべていることに、己だけが気付いていなかった。