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魔王が出来る3つの条件  作者: かずあ
魔王のマ!
6/29

魔王のマ!その6!



―――

――



 「あんた――たんだ」



 「そりゃ俺の夢だからな」



 「夢?―――ないかもね!」



 「お前がその第一歩でも俺は構わないけど」



 「―――――!!」



 「まぁまぁ、そう焦らずに」



 「――もっ、そんなんだから―――」



 「………」


 「あはっ、――――!」



 「わかったから、わかった」



 「―――――――!」




――

―――






 <う…どうしたの?>




 少し強めにゼリーを握ってしまったようだ。出来れば夢は見たくないんだけどな。




 「いや、なんでもないよ。おはようジル」




 <…ん!おはようコータ!>



 ジルと軽く挨拶を交わして、毛布を退かす。まだ身体はだるいけど、気にするほどでもない。



毒草の類が欲しいから、今日は採取依頼でもやってみようかな。幸い鑑定もあることだし、間違えることもないだろう。




 「今日は採取依頼をしようと思うんだけど、どう?」




 <どうって、いいんじゃない?別に>




 ジルの了承も得たことだし、さっそくギルドへ向かうとしよう。


 出していた物をポケットに詰めると、ジルを右肩へ。軋む扉を開けて外へと出る。

 途中屋台で、美味しそうな肉串を売っていたので、朝飯代わりに5つ。3つが俺で、2つがジルだ。仲良く分けながら食べていると、昨日見ていた武器屋が目に入った。




 (そういえば武器らしい武器持ってないんだよな。コレは形だけみたいなもんだしな)




 そろそろ剣とか買ってもいい頃だとは思うけど、剣術なんて知らないし剣道でだって成績は下の上。そんな俺がうまく扱えるとは思わない。ゲンツの時は、足をかけて隙だらけの背中に一撃入れただけだ、あれなら誰にでも出来る。




 当面はケルスかなぁ…スローイングナイフとか買っておくか、遠距離用に。



 目に入った使い捨て用のスローイングナイフを5本、ホルダーはおまけしてもらった。



 

 「毎度ありぃ!またの御越しを!」



 店主の声を尻目に腰に付いてるホルダーを見る。


 これ中々様になってるんじゃね?スッと取り出してビュッ!みたいな。



 俺が頭の中で敵を想定して、ポーズを決めていると、周りの人に見向きすらされなくなった。バケモノを通り越して無ですか。



 <あんたが変なことしてるからよ>



 ついにはジルにまでこんなことを言われる始末。どうやら俺に癒しはないようだ。




 人目を避けながら走ること数分、ギルドの看板が見えてきた。このまま入ろうかと思った矢先、入口近くにゲンツ等が居るのを確認した。




 (面倒な事にならなければいいけど…)

 




 辺りをきょろきょろと見回している彼らは、この間と同じメンバー。ケルスを握り締めると、奴らにも見える場所へ移動した。




 斧の奴が気づいたようだ。ゲンツの肩を叩きこちらに指をさしてくる。人に指をさしちゃいけません、って教わらなかったのか。



 が、どうやら違うようだ。向きは俺だが俺の後ろ、絶世のイケメンに注がれている。



 なんだこの神々しさ…後ろに居たのに気付かなかっただと…。



 <ほわぁ…かっこいいねー>




 …俺の癒しは完璧に潰えた。目的が俺じゃないのなら話は早い、脇をサササッと通りギルドへ入る。ジルは肩から飛び降りイケメンのとこへ行ってしまった、とんだ面食いスライムだな。イケメンがなんだっつーの。



 適当に青銅の掲示板から採取の依頼を剥がす。バラカとゼルーを東の森から10株づつ採ってきてとお手頃だ。



 受付が終わってもジルが戻ってこないので、外を覗くと丁度イケメンとジルが共闘して、ゲンツを倒しているところだった。




 (先行くか)



 悔しい気持ちでいっぱいになるが、こんなの今に始まった事じゃない。受付の人にお金を握らせ、東の森の場所を聞くと、気づかれない様にギルドから出る。



 どうやら東の森は俺がサバイバルしていた所らしい。あの時くぐった門が見えてくると、あの事を思い出した。




 (ホモなお兄さんがいる…!)




 堂々と出て行くべきか、こそこそと出て行くべきか。モタモタしていたらジルに気づかれてしまうかもしれない。ここは堂々とだ!




 「そこの奴、止まりなさい」



 はい、お兄さんにつかまりました。お、俺をどうする気なんですか…



 「なんですか?これから依頼なんですけど」



 大事なものも失いたくないので、話を早めに終わらそうとする。



 「それはすまなかったな、気を付けて行くんだぞ」



 あれ?案外いい人?チョロイ人?すんなり通してくれたことに違和感を覚えるのは、いけないことだろうか?いや、正常だ。また俺の尻を見ている。




 とりあえずと、森へと入っていく。


 やっぱし背が高いな。町の宿から余裕で見えてたもんな。ここでサバイバルをしていたとなると、感慨深いモノがこみ上げてくる。




 辺りに生えているバラカやゼルーを手当たり次第にぶっこ抜き、ポケットの中へと入れて行く。この様子じゃ思ったより時間かかりそうにないな。昼ちょっと過ぎくらいには帰れそうだ。

 と思いジルを思い出す。



 (ちょっと時間つぶしていくか)



 バラカやゼルーでパンパンになったポケットを見て、なにか入れられる物を買おうと決める。あって損する物でもないだろ。



 途中生えていたセリリを非常食として取っておく。ノキアも忘れずにな。




 どんどん奥へと進んでいくと右手に洞窟が見えてきた。何かあるかと近づいてみると、手前にこんなものが落ちていた。




 名:バリ

 種類:鉱石

 状態:帯電68%

 説明:静電気などを溜めておける鉱石。その量は大きさに比例して上がる。砕けると帯電させていた電気が魔素を伝い、辺りに漏れ出す。




 ほえーこんなんがねー。見た目ただの石。見る人からすると違いがわかるのだろうか?


 知らないアイテムがあるのは嬉しい情報だ。このまま中に入り探索を実行する!



 「こちらサイトーウ、応答願う」



 しゃがみ歩きでぼそぼそと喋る。こういうのは気分が大切だ。先ほど拾ったバリをトランシーバーに見立て、喋っていると、奥の方で微かに音がした。


 さっとケルスとジャグを取り出しバリを仕舞うと、足音を立てずに進んでいく。



 (なんだ…?)



 茶色い物体が見えてきたところで足を止め、鑑定を使う。



 名:バッフィー

 種族:獣

 状態:睡眠100%

 説明:よく食用として狩られるモンスター。その肉は癖が無く、どんな調理をしても大丈夫な為幅広く使われる。戦闘能力は低いが、そのツメから繰り出される引っ掻き攻撃は侮りがたし。




 あのくそったれな宿で食った料理の元か。まぁ金にはなるだろ。



 奥へ進もうと足を動かしそうになるが寸でで止めた。



 (まだ何かいる)



 よーく目を凝らすとその物体が姿を現した。眠ってはいるが野生の動物、音を立てようものならすぐに起きだすだろう。



 体長2~3m位狐と犬を足して2で割った見たいな顔に、犬歯がサーベルタイガーの様に飛び出している。



 名:シルファング

 種類:獣

 状態:睡眠50% 警戒

 説明:バッフィーと似た姿からは想像もできない早さで、そのツメ、キバの餌食となるだろう。光る物が好きでついつい咥えてしまうのが弱点。出遭ったら銀貨を投げろ、金で命は代えられる。毛皮が高級品として市に出される。なお、より強い者に惹かれる。





 逃げよう。俺はまだ死にたくない。


 ソロリソロリとその場を後にする。いやーしかし危なかった。バッフィーだけだと思って走り出す所だった。もし目がよくなかったらあそこでお陀仏だったな。



 出口が見え気が緩んだ時、ポケットからスパンの片割れがこぼれおちた。カキーンといい音を打ち鳴らし転がるそれを確認した途端、走り出す。



 (っべぇ!っべぇ!)



 洞窟の奥の方ではすでに何かが動き出している。出口までは残り5m程だが、もうすでに後ろ20mの所で音がする。



 ケルスとジャグを握って振り返ると、シルファングがそこに居た。


 もう財布から銀貨を取り出す時間などない、今はどうやって生き残るかだ。



 シルファングはぐるるる、と低いうなり声を出し、何時でも飛びかかれる体制に居る。少し、ほんの少しでも動けばその鋭いキバで喉を…。



 (大丈夫、大丈夫、やらなきゃいけないことあるだろ!それが終わるまで死ねないだろ!)



 「こいよおらぁ!」



 自分に喝を入れるため大声をだす。"よ"の時点でシルファングは飛んでおり、辛うじてケルスを持った手を前へ突き出す。


 すると、ボキッとなにか硬いものを折った感触が伝わって、その数秒後、シルファングの鳴き声とカローンという軽い音が洞窟内にこだまする。



 (牙が折れたのか!僥倖僥倖)



 シルファングの方を伺うと根元からポッキリ折れているようで、口内が丸見えだった。

 あの大きさなら腕一本入りそうだな。




 意図しない攻撃に警戒を強めたのか、低い姿勢のまま円を描くように移動し始めるシルファング。


 俺はジャグとケルスを仕舞い、先ほど手に入れたバリとノキアそのまんまを取り出す。どのくらい生物に対して有効なのか、実験が必要だろう。



 隙を見せない様に、俺もシルファングにならって動いていく。

 どれほど経っただろうか、向うが痺れを切らし飛びかかってきた。




 (怖がるな、大丈夫。良く見ろよ、よーく、よーく見ろ。握った手は右か?左か?)



 周りの時間がスローになる。その中で俺は、ノキアを握った手でキバの無い口の中へ腕を突っ込む!



 (怖くない、大丈夫。噛まれないって)



 うまく入ったようで、ぬるりとした感触が腕を伝う。うかうかしてはいられない。握ったノキアをさらに強く握り、ノキアの汁を絞り出す。

 シルファングは口の中へ腕を入れられたことに対して、もう一度口を開き腕を噛みちぎろうとしてくる。が、遅い。すでに俺の腕は口の外だ。



 脳内麻薬がドバドバ出ているのか、今の俺はハイテンションでなんでも出来るような感覚がしてくる。



 バックステップで距離を取ると、向うもそれに合わせた様に後ろに下がる。よかったぁ…そのまままた飛びかかられなくて。


 ま、これでミッション完了だな。しばらくすれば毒にやられて動けなくなるだろう。



 少し様子を見てみたが一向に倒れる気配が無い。これは効いてないのか?と思い始め、ジャグをとりだした頃、やっとシルファングの身体が傾き始めた。




 「っはーぁ…」



 肺から重苦しい息を吐き出して一息つく。シルファングは床でぴくぴくしている。



 (殺すか殺さないかだなぁ)



 鼻先にバリを設置して少し離れる。次にケルスを取り出して、置いたバリ目掛けて投げつける!ケルスは見事バリに命中して、砕けたバリは帯電させていた電気を放電させる。青白い光が一瞬ぴかっと光るとシルファングが大きく跳ねて、動かなくなった。



 (怖いから一応確認っと)



 名:シルファング

 種類:獣

 状態:気絶 破損20% (キバ、鼻、毛)

 説明:バッフィーと似た姿からは想像もできない早さで、そのツメ、キバの餌食となるだろう。光る物が好きでついつい咥えてしまうのが弱点。出遭ったら銀貨を投げろ、金で命は代えられる。毛皮が高級品として市に出される。なお、より強い者に惹かれる。



 


 死んではいないようだ。68%でこの威力か…切り札的なアイテムだな。毛皮もある程度焦げてしまっているので、折れたシルファングの歯を拾い殺さずに洞窟を後にする。




 「はー…俺生きてる…」



 戦闘中の威勢はどこへやら、洞窟からさらに離れた草むらに尻もちを付くと、飛びかかってくるシルファングを思い出す。



 「よく生きてたよなー。あのキバ折れなかったらどうしてたんだろ」


 最悪胃の中になってたかもな。未だモンスターとの戦闘で大けがをしたこともなく、何事も順調だ。



 いい時間なのでもう帰ろう。日はすでに頂点より少し下、もう数時間もすれば暗闇になる。

 ポケットの中にゼルーとバラカが個数分あるのを確認して、来た道を引き返していく。



 途中少し迷ったが、基本真っ直ぐ歩いていたのですぐに門が見えてきた。くったくたなので一っ風呂浴びたいとこだが、あいにくこっちの風呂はまだ見たことが無い。無い…とは思いたくないので、いつか実現しようと心に誓う。




 「やぁ、大丈夫だったかね?」



 このお兄さんは何時もここにいるのだろうか?森に用があると、必ず出会わなければいけないみたいだ。




 「はい、大丈夫ですよ。これから完了の有無を伝えに行くところです」




 「それはよかった、では」



 行商人らしき人が向かってきたので、お兄さんの注意がそちらに逸れた。グッジョブ商人さん。




 ギルドを目指すために人通りの多い道をささーっと走り抜けると、途中あの神々しいイケメンが綺麗なお姉さんに囲まれていた。

 ……もちろん肩にはジルが居る。ジルはこちらに気づいたようだが話しかけてはこなかった。これはもう、な…そう考えていいだろう。




 走るのをやめ、とぼとぼと歩く。俺あいつになんかしたかなぁ。昨日の夜の事が原因かなぁ。相棒だと思ってたんだけど、思ってただけか…



 そのあとの事はよく覚えていない。気がつくとあの宿屋のベットに腰をかけていた。ポケットの膨らみが無くなっていたので、ギルドには行ったんだろう。飯を食べていないけど、こんな状態じゃ入る物も入らない。




 「……………おやすみ」




 もう寝よう。明日も生きていられますように…






成り行きで書いてたらジルが…ジルぅ…




ここからだんだんと主人公の精神が圧迫されていきます

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