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魔王が出来る3つの条件  作者: かずあ
魔王のマ!
5/29

魔王のマ!その5!

多少R-15入ります




最後の方修正入りました

 「んぐ……おいジル、なにをしている」




 目を覚ますと目の前には青いゼリー。俺の顔に覆いかぶさっているジルを退かすと、昨日考えていたこしょこしょの刑を執行することに決めた。ゼリーに手を入れながら、こっちにきてまともに起きれたためしがないと思った。




 まだびくびくしているジルを横目に、昨日晩飯を食い損ねた事を思い出した。窓が付いてないので、廊下に出て確認してみると、早い時間に起きたのか日が昇ってからそれほど経っていないようだった。




 髪の毛をいじくりながら階段を下りると昨日の女の人がいた。




 「おはようございます」



 俺に声をかけられた女将さんは、バケモノでも見るかの様な顔をして、営業スマイルを一つ。声はかけてくれなかった。いつのまにやら肩に居たジルに慰められつつ、食堂らしき所に出向くとキッチンに昨日のおっちゃんがいた。




 「おはようございます、ご飯大丈夫ですか?」




 時間も分からないので、これでもう駄目とか言われたらどうしよう。あんまり無駄遣いしたくないなぁ。俺に気づいたおっちゃんが顔を向けずに一言




 「おう、間に合うぜぇ。そこらへんに座ってな」



 なにやらいい匂いがしてきた。肉系の料理だろうか?イスに座ると昨日の様にジルがテーブルに飛び乗る。ゼリーをぷにぷにしながら待っていると、出来た様だ。木のトレーに器を乗せおっちゃんが近づいてくる。



 「おまち!今日は豆のスープにバッフィーのもも肉を煮たのもだ。パンはお代わり自由だから、足りなくなったら取ってくれ」



 キッチンのカウンターに置いてあるバスケットには、黒ずんだ丸いパンが存在感を放っていた。あれはライ麦パン?みたいなやつか。確かスープに浸して柔らかくしながら食べるんだったよな。トレーに入ってる黒パンを一口齧ってみると、どうやら当たりのようだ。硬過ぎて噛み切れない。




 仕方なく豆のスープを啜りながら浸していると、横からジルのゼリーが伸びてきた。そういやジルの主食ってなんだ?雑食?水だけでおっけー?取り込まれる肉を見ながらジルに聞いてみた。



 「ジル、お前の主食ってなんだ?」



 溶かし終えたのかゼリーで肉を指さし、スープを指さし、パンを指さし、最後に俺を指さした。要するに雑食ってことね。



 浸したパンを木のスプーンですくい、もぐもぐ食べていると、肉が予想以上に無くなっている事に気がついた。流石にジル、お前は食い過ぎだ。まだ伸びているゼリーをぺちんと叩くと、黒パンをゼリーの中に突っ込んだ。なにをするんだと言わんばかりに、ぴょんぴょんと跳ねていたが、一撫ですると大人しくなった。ホントにかわいいなぁ…




 「ごちそうさまでした」



 最後に残った肉と、黒パンのかけらを口に放り込むとトレーをカウンターまで持っていく。昼飯にとバスケットから黒パンを1つ取るとおっちゃんが出てきた。




 「おいしかったですよ」



 黒パンは不味かったが、スープと肉は塩味が聞いてていい味だった。するとおっちゃんはニコッとして奥へ戻ってしまった。なんだ、この宿は客に愛想が悪いのか。少し落ち込んで部屋に戻ろうとしていると、ちょうど客が入ってきたようだ、あの女将さんが接客をしているのが見えた。



 (めっさにこにこしてるうぅうぅう!めっさにこにこしてるでぇぇぇ!)



 相手がイケメンだからなのか、知り合いだからなのか定かではないが、俺の時とは天と地ほどの差があると言っても過言ではないだろう。もう出ようと、階段を上がっていると女将さんが気づいたようだ。一瞬で真顔になった。俺が一体貴女になにをした。




 もうこの宿には泊まるまいと心に誓い、出していたゼルーとバラカ、非常食のセリリと小瓶を右ポケットに、スパンとケルスを左ポケットに入れてまた階段を下る。女将さんが居たが、そっちがその気ならこっちも相応の態度で行かせてもらおう。




 「最近の宿ではお客さんに笑顔も見せられないんですね、そんなんでやっていけるんですか?あ、おっちゃんには飯ありがとうと伝えて下さい。それとこれを」




 文句を言いながら札と一緒にバラカを渡す。ただの嫌がらせだ。矢継ぎ早に繰り出される文句に、口を開けポカーンとしていると、あちらも文句を言おうと口を開けてきた。だが遅い、右のポケットからセリリを取り出すと開けられた口に放り込む。これでミッションコンプリートだ。怒られないうちにさっさと出てしまおう。




 俺は扉を蹴って開けると外へと飛び出した。後ろではなにやら声が聞こえるが、どこかで喧嘩でもしてるのだろうか?まったく、近所迷惑ってものを考えろ。




 「さぁてと、さくっとギルドに行って冒険者登録でもしますかな」



 買い物などは後回しでいいだろう。奪った財布を見ると銅の貨幣がいくつかと、鉄の貨幣が3つ、銀っぽいキラキラしたものが1つあった。価値は分からないが、鉄貨があるので後1日は宿で泊まれるだろう。




 途中にある武器屋でどんな武器にしようか、など考えていると人とぶつかってしまった。



 「あっと、すみません。大丈夫ですか?」



 チラリと顔を伺うと、昨日道を教えてくれた人だった。これは運命か…!よくある曲がり角でドッターンってやつでは?ここは紳士的に対応せねばならん。ここまで考えるのに1秒。



 「大丈夫ですか?どうぞお手を」




 手を伸ばし、尻もちを付いている彼女に向ける。すると彼女は大丈夫ですから、と手を払いのけて立ち上がり、去ってしまった。とんだ照れ屋さんだな、そんなとこもかわいいぜ。そう思いたい。払いのけられた手を気まずそうに引っ込め、何事もないかのように歩きだす。目が……。なんだこの世界は…俺が何をしたってんだチクショウ。



 半ばヤケになり走ると、それらしき看板が見えてきた。"ギルド"。分かりやすくて二度見してしまった。他にもなんかあるだろ!厨ニ的な何かが!まぁ別にいいんですけどね。




 どうやら扉は付いてない様だ。雨風の時どうするんだ?と思ったら取り外し可能な扉が内側に立てかけてあった。出入りが激しいからだろうか?今は朝方だから人はそこまで多くないが、それでも出て行ったり入って行ったりする人を見かける。



 (さぁて、受付らしき所は見えるがどこに並べばいいのやら)



 迷いながらうろうろする俺。それを怪しい目で見る係の人。ぷるぷるしているジル。周りを見回すと、紙が張り付けてある掲示板みたいなのがいくつかある。あれが依頼の紙なのか?




 (お、酒場のおっちゃんと同じ模様が彫ってある)




 ランクごとに分けてあるのだろうか。んまウロウロしていても仕方が無い、勇気を出して言ってみるか。



 「あのーすみません、登録したいんですけど…」



 女の人の所を選ぶのは仕方ない!仕方ないんだ!だから暴れるなジルっ!


 俺が必死でジルを宥めていると返事があった。



 「はい、登録でございますね。では、こちらにお名前を。それと注意事項に目を通してくださいね」



 こっちに来てから、女の人にまともな対応をされたことが無い為、これだけでも嬉しく感じるのはもう駄目になる予兆だろうか。



 「あのぉ…代筆とか大丈夫ですか?」



 もちろん文字など書けるわけがない。読めはするけど書けないのもなにか訳があるのかな?



 「……はい、かしこまりました」



 おい、おい。今顔をしかめたのは気のせいでございますよね?……うっ…




 「お名前は?」



 「…さいとう…こうたです…」



 ぐぅ…こんなんじゃ俺の野望なんて…。接客業の人は笑顔を絶やさずにじゃないの…?



 「…はい、終わりました。説明を御読みします。こちらギルドでは皆様のお手に余る仕事、その他用事等、認可出来る範囲で冒険者の皆様に斡旋しております。その中にはモンスター討伐等もあります、この依頼などで命を落とす人が数多くいます、なので当ギルドでは命を落とした場合、責任を取りかねますのでご了承ください。他にも利用できるモンスターの部位、植物などの買い取りも行っていますので覚えておいて下さいね。ここまでで質問はございませんか?」




 …まぁ、書かれてること全部だよな。あ、そうだ一応聞いておくか。



 「自分より上のランクの依頼は受けられますか?」




 そう俺が答えるとお姉さんは眉毛をピクリとした後、ため息のような声で話し始めた。だから、俺が…なにをしたんですかぁ…



 「受けられはしますがオススメは致しません」



 まぁそうだよな、よくあるゲームでもそうだ。大抵は強敵を討伐してこいとか、断崖絶壁に生えてる花を採ってきてとかそんな感じだし。



 「それでは腕をお出し下さい。ギルド紋章をお付けします。」



 あのおっちゃんの二の腕にあったやつか。おっちゃん?うーむ…。あ、確か紹介状を貰ってたな。こんなんでホントにランクが上がるのか?




 「あ、すみません。紹介状を貰っているのですが」



 「……はい、確かに。では少々お待ち下さい」



 また顔をしかめられた、もう心に響かない。こんなとこに居たら精神がオリハルコンになるぞ。備え付けのイスに座って辺りを眺めていると、手の甲など見えるところに紋章をつけている人が多いようだ。なんか馴染めないな、だって普通に剣とか背中に付けてるんだぜ?日本で言ったらどんな中二病だよ…。きょろきょろしていると、一際目立つ黒い物体が一つ。なんだあれ…一応鑑定で視てみると



 名:フォル・スール

 種族:人間

 状態:普通


 人らしい。じぃーっと見ていたら、黒い部分の一部が髪へと変わっていった。フードでも被っていたらしいそのばーさんは、ジロリとこちらを見るとまたフードを被り直してしまった。なんなんだ。



 しばらくジルとじゃれていると、お姉さんが戻ってきたようだ。なにやら焦った顔をしているが、接客態度で怒られでもしたのだろうか。



 「お待たせいたしました。それでは、ジールク・グリル様の紹介で、サイトウコータさんをランク鉄とします。紋章はどこにお付けしましょうか?」



 んー。んんんんー。どこに付けるのが自然か…自然もなにもない気がするが。そうだなぁ…。俺が唸り迷っていると、ジルがうなじを叩いてきた。そこに付けろと?…じゃあそこにするか。



 「首の後ろにお願いします」



 痛みとかは無く、ちゃんと付いてるかわからないけど、問題なく…らしい。ジルに確認してもらった。



 お姉さんは俺に紋章を付けると、そそくさと引っ込んでしまった。んま、これで俺も冒険者だ、金でも稼ごうかな。鉄…はやめとこう、まずは銅を見てからの青銅だ。初めから躓いてたら面白くないからな。




 違う受付の人に銅と青銅の場所を聞いて、掲示板に赴くと




 依頼:庭を綺麗にしてくれないか

 場所:自宅

 報酬:青貨3



 依頼:届けてほしい物がある

 場所:王都グリンドルセン

 報酬:鉄貨2




 こんなものが永遠と…気持ちは分からないでもないけど、やっぱりモンスターとかと戦いたいよなぁ。…?俺ってこんな喧嘩っ早かったっけな…。などと考えていると一つの依頼が目を引いた。



 依頼:ゴロツキの対処

 場所:ギルド

 報酬:要相談、物も可




 これはなかなかいいのでは?昨日倒したゲンツってやつ位だったら撃退出来そうだし、場所がここなら話は早い。びりっと貼られている紙を剥がすと受付へ持っていった。




 「依頼はあちらになります」




 …あ、はい。どうもすみませんでした。この先やっていけるのか少し不安になった。



 「…はい、確かに。複数の受理は可能とされていますがどうしますか?」




 その問いに首を振って答える。さて、場所がギルドって言ってたけど依頼主は何処にいるのやら。受付に向いていた顔を振り向かせると、そこにはあの黒い塊。




 「っわ…。ごめんなさい」



 この人も依頼を受けに来たと思い横にそれると、どうも違ったようだ。一緒にその黒いばーさんもそれてきた。



 「…なにか用ですか?」



 ただの嫌がらせかと思ったが初対面でそれもないだろう。



 「私が依頼主だよ」



 しわがれた声でそう言うと俺の手を引いて外へ歩き出した。依頼主なのは分かったけど初めて手を繋いだのがばーさんって…なんだろうな、この気持ち。俺が沈んでいる内にギルドを出て路地へと入ったようだ。



 「あんたには私を狙ってるゴロツキ共を倒して欲しい。報酬は、無理のない程度なら聞くよ。人数は3、一人はゲンツ・ルサードってやつだ。」




 そんな早口で言わなくても…ゲンツねぇ…。んま、やるけど。報酬がこちらである程度決められるのは美味いからね。



 「はいはいっと、アフターケアは別にいいのね?」



 「あふたーけあ?なんだそれは」



 あー英語とか無いもんな。うっかりしてた、このドジっ子め!とボケていたらジルに突っ込みを入れられた。目は痛いですジルさん。



 「倒した後の事ですよ。もう一度襲ってくるかもでしょ?」


 「ああ、それなら構わん。倒してくれればそれでいい。但し、近くで私も見るぞ。組んでいたら敵わんからな」




 妥当な所だな。ばーさんに余り近づかないことを告げ。よくゲンツらがたむろしている路地へと移動する。ノキアの汁はもうないけど、ゲンツがあれならケルスで殴ればいいか。この剣なんて切れなきゃ意味ないしね。腰に付けてある剣を一瞥し、歩き続けていると…居た。数はばーさんの言った通り3人、内一人はゲンツだ。




 名:ゲンツ・ルサード

 種族:人間

 状態:普通



 名:エキ・イサト

 種族:人間

 状態:破損2%(左肩)



 名:タテ・グローツ

 種族:人間

 状態:普通




 視てみたが特に変わりは無し…?破損の部分に追記があった。便利だけど、前まであったっけ?まぁ弱点が分かるならそれに越したことはないけど。



 「じゃあばーさんはここに居てね」



 「誰がばーさんじゃ、さくっとやっておいで」



 ケルスを右手で握るとバラカの残りを取り出し、ジルへ渡す。って言っても溶かさずにゼリーに入れるだけだけど。



 「ジル、隙を見つけてそれを酸化させたゼリーとともに、やつらの一人の口に入れてくれ。酸はそれほど強くなくてもいいよ」



 ジルはこくんとうなずくように上下に揺れると、バラカをゼリーに入れた。準備はよしと。じゃあまたお金頂くかな!




 「お?おめーは昨日の…」




 やつらにも見える所まで移動すると、ゲンツが気がついたようだ。その手には剣が握り締められている。



 「よく覚えてたねおっさん!今度は依頼なんだ。悪く思わないでね!」



 子供っぽく言うと、ファイティングポーズをとる。他の二人も敵だと認識したのか、一人は手斧、もう一人は片手剣に盾を構える。



 「丁度いい、俺もお前に用があったんだよなぁ」



 言わなくても分かるけどね。そういうとまた同じように走ってきた。今度は3人だが大丈夫、路地裏なら狭いから囲まれる事は無い。それに今日はジルも一緒に戦うからな。



 走ってくるとおっさんは両手で握った剣を、右下から逆袈裟がけ気味に振り上げてきた。それを左に避けるとあの斧を持ったやつが、その斧を振り上げているところが目に入った。



 (っまず…!避けれない!)



 斧が俺に届く直前、肩が軽くなったと思ったらジルが斧に向かってジャンプしていた。やっているジルは計算してだと思うが、みているこっちは核がやられないかとひやひやだ。



 いきなりの乱入に持ち主が戸惑っていると、ジルがバラカを開いた口に入れた。訳も分からず吐き出そうとしたが、少し飲みこんでしまったようだ。離れながらゴホゴホと咳き込んでいる。これであいつはリタイヤだな。



 斧のやつが離れる前に、ジルが俺に飛びつき戻ってくる。よくやったな、と声をかけている途中にゲンツが剣を薙いできた。俺はしゃがんで避けると足をかけ、倒れこんでくる身体にすれ違いざまケルスを持った右手で一発入れてやる。



 革鎧を着ているがさすがに応えたらしい、腹を押さえて蹲っている。バックステップで少し距離を取ると、片手剣のやつが行くか行かないか、戸惑っているのが目に見えた。が、斧のやつが復活したのを見て行くことにしたらしい。なんともメンドクサイ。




 片手剣のやつを前に、斧が後ろで攻めてくるらしい。じりじりと少しづつ距離を詰めてくる。たまにはこっちから行くか、と思い俺が走り出すと、奴は盾を前に出し衝撃に備える。その安っぽい盾と、加工方法が見つからない、めっちゃ硬い石、どっちが強いんだろうなぁ!



 木で出来た丸っこい盾をケルスで思い切り殴ると、ガッコーン!と大きな音を立て、盾のほうが砕けてしまった。壊れた盾に付いていた取っ手を持ちながら、何が起こったのか分からないという顔をしている奴に、続けざまにケルスで一発。何かが砕けるような感触が伝わってきて、後ろの斧使いを巻き込み一緒に転がる。




 「っはー。ま、こんなもんでしょ」



 2回戦も大勝利だ。斧使いはこれといった外傷はないが、バラカの毒が効き始めたのか、立ち上がれない様だ。




 「あんた、なかなかやるもんだねぇ…あの男に飲ませたのはバラカかい?」




 隠れていたばーさんがフードを取りながら近づいてくる。その通りだけど、なんで分かるんだ?




 「なぜそのことを?」



 「あいつを見ればわかるわい。薬師を見くびってもらっては困る」




 このばーさん薬師だったのか、なら分かって当然…か?まぁ追求しても得はしないし、それより報酬だ!



 「いいもんを見させてもらった、これをやろう。安心しな、報酬とは別だよ」




 まさかそれが報酬?とか顔に出てたかなぁ。左手で顔を撫でているとなにやら小瓶を貰った。この小瓶、持っているやつと同じやつだな。中に液体が入っているようだ、視てみると




 名:????

 種類:液体

 状態:液状

 説明:フォル・スールが作った薬。飲むとモンスターと意思疎通が出来ると言うが…?




 「モンスターと意思疎通が出来る…?」




 思わず口に出してしまった。それを聞いたのかばーさんが驚いた顔で迫ってきた。




 「お前さん、なんでそれを?まさか、やっぱりあいつらと…」




 なにやらヤバ目な雰囲気なので、鑑定の薬を使ったと話した。俺としては秘密にしておきたかったが、この薬は魅力的だ。ジルと会話が出来るなんて夢みたいだな。



 「…鑑定の薬…でもあれは師匠が…何処で手に入れたんじゃ?」



 「ここから半日行ったとこにある森だけど…」




 まだ怪しんでるのか。まぁそりゃ鑑定の薬なんて言われてもピンとこないけどさ。




 「そうか…近くに手紙はなかったか?」



 手紙というとフェラグレ・スールさんのやつだろうか。…!そういえばこのばーさん、スールって名前がついてたな。それに薬師っていうし、師匠って言うのも繋がる。




 「…これですか?」



 尻のポケットから手紙を取り出し見せると、ばーさんが乱暴にひったくり、中身を見始めた。気持ちはわからなくないけどな。ジルを撫でながら待っていると、読み終えた様だ。




 「この手紙、貰ってもいいか?」



 目を拭いながら聞いてきた。無くなって困るもんでもないし、遺留品なら…な。



 「もちろん、スールさんもその方が喜ぶだろうと思いますし」



 ありがとう。と呟くと懐に仕舞い始めた。こういう流れになると報酬の話言いづらくなるよなぁ…。俺がどういう感じで切りだそうと悩んでいたら、ばーさんがその薬を飲んでみたらどうかと勧めてきた。鑑定で毒ではないことがわかっているので、ひと思いに中身をあおる。




 「んっくん。っと、どう、ジル。なにか話してみて?」



 特に味がしなかった、感じで言うとバリウムみたいな。量が多くなくてよかったよ。肩に乗っているジルに話しかけると、反応はなかった。




 「ばーさん、この薬効かないみたいだよ」




 説明でも疑問形だったし、まぁしょうがないか。ばーさんはそんなはずないと大声で怒鳴っているが、ジルからコンタクトがないのが何よりの証拠だ。





 「効かなかったの、調合でも間違えたん…<…タ…!>…ばーさんなにか言ったか?」




 かすかに女の子の声が聞こえた。ないとは思うがばーさんの声だったのかもしれない。それにばーさんは、ないないと首を横に振る。じゃあ誰だ…?俺がケルスを握り直し、きょろきょろしているとまた聞こえてきた。




 <…タ!…だよ!>




 幾分かハッキリしてきた。近くにいるという事か…ゲンツ達の仲間だったら厄介だな。足音は聞こえない。しばらくどこから来てもいいように注意していると




 <コータ!こっちだよ!>




 耳元であの声がした。後ろか!?と振り向きざまに裏拳をすると見事に空振り。ばーさんに変な目で見られた。




 「いや、声がしたんだよ耳元から!」



 <だからあたしだってば!気づいてよもぉー!>




 また耳元で声がした振り向くが人は無し。戸惑っているとジルがぺちんと叩いてきた。



 「ジル、今大事な時なんだ。邪魔しないでくれ」



 いつ敵が来るか分からないのに…と続けると、ゼリーの乱舞が襲いかかってきた。




 「あた、っちょ、少し溶けてるぞ!わかったからやめろジル!」



 ペチンと叩かれた頬からは、微かにジュゥーという音が聞こえ、炭酸に浸したような感触が伝わってくる。




 <コータが気づいてくれないのが悪いんでしょ!私はここに居るのー!>



 …?ここ?今ここに居るのは、ばーさんと俺と、ジル?まさかさっきの薬、効果があったのか?



 「…ジル…か?」



 そう言うとゼリーの乱舞が止まり、ジル?の声が聞こえてきた。どうなってんだろうなこの世界の薬は。



 <そうだよ!やっと気づいてくれたー、ニブチンなんだから>



 ニブチンってなんだよ…まぁこれでジルとは考えていた以上にうまくやっていけそうだ。にしてもメス?だったんだな。




 「そんな声してたのかお前」



 <そうよ。悪い?>



 いや、悪くはないけど…。などと会話していると、ばーさんの事を思い出した。相当暇だったのか、倒れている奴らの懐から財布らしきものを引きぬいているとこだった。じゃらじゃらと少しにやけた顔で戻ってくると




 「どうやら効果あった様じゃな」




 はい、効果てきめんでした。でもなんで効果が出るまでにラグがあったんだろうな…考えてもしょうがないか。




 「それより報酬は…」



 待ち切れずにそう切り出すと、ばーさんは待ってましたと言わんばかりに、奪った財布の一つを差し出してきた。え、それ?持った感じそれなりに入っていると思うけど、これだけ?




 「まぁまぁ、今日はこれも付けてやろう」




 と言うとなにやらまた、小瓶を取り出してきた。



 「自慢の鑑定で視てみろ、お前さんなら欲しがるじゃろうて」



 くつくつと笑い渡してくる。そこまで言うなら自慢の品なんだろうな…期待しながら視てみるとそれは確かに、俺が欲しいと言えば欲しい物だった。





 名:スール印の媚薬

 種類:液体

 状態:液状

 説明:スール印の媚薬。効果は試してみてからのお楽しみ。それなりのは期待してもいいだろう。材料も身体に害のない安心調合。




 チラリとばーさんを伺うと悪そうな顔をしていた。おぬしも悪よのぅ…!しょうがねぇから貰ってやるか!金も手に入るしな!



 俺の満足げな表情で理解したのか、それじゃあの、と言ってどこかへ行ってしまった。まぁいい、それよりこれの使いどころだ…ぐふふふ、どうしようか。




 <…ねぇ、それ人間の女に使うの?>




 大通りに出ようとジグザグに移動しながら飯の黒パンをかじかじしていると、ジルが声をかけてきた。そういえば話せるようになったんだよな。



 「なんだジル、人に使わずに誰に使えと言うんだ」




 <それは…もう!なんでもないわよ!使えばいいじゃない!>




 なんなんだよ一体。モンスターに使ってもいいけど人型なんていないだろ多分。




 ギルドに戻り依頼完了の有無と伝えると、今日の宿はどうするかと探すことにした。あそこは散々だったからな。



 「ジル、宿どうしようか」



 <…!え、えと、そうね。コータが決めたとこならどこでもいいわよ>




 ジルに聞くと、どもりながら返してきた。明らかに様子がおかしいけど…



 「どうしたんだ?ジル」



 肩に乗ってるジルを見つめると、頭に乗ってしまった。



 <もう、そんなに見ないでよ…>




 ホントに何だって言うんだ。分からないな、と思いながらも宿を探すがこれといった所が無い。これではあの宿に行くことになってしまう、それだけは避けねばならん!



 <あ、あそこなんてどう?なんかよくない?>




 ジルにそう言われ、ゼリーの指した方を見るが…あれは宿とちゃう、娼館や。



 「あそこは駄目だ」



 <えーなんでよー。繁盛してそうよ?>




 確かに繁盛してそうだが俺が行きたいのは宿屋だ!それでも悪くないかもと思っている自分を戒め、宿屋探しを再開する。すると一つのぼろっちぃ宿を見つけた。日も傾いてきている。仕方ない、ここにするか。がちゃり、と扉を開くと女の人がトトトトっと近づいてきた。




 「いらっしゃいませ、本日は…何泊で?」




 前半いい感じの声色だったが、後半投げやりみたいな…よく見るとあのぶつかった女の人だった。これは運命じゃね?媚薬もきっとそうに違いない!ここは3泊ぐらいしとくか!



 「3泊でお願いします」



 <なによ、この女…溶かしてやろうかしら>


 キリリッっとした顔でそう告げる。途中ジルが怖いことを言っていたが無視だ。本気ですることはないだろう。



 「…3泊ですね、ありがとうございます。それでは2鉄貨になります」




 こっちの宿の方が安いのか。こっちにして良かったな、などと思っているとどうやら飯、水などその他のサービスが無いらしい。金を渡すと札を持たされ女の人は奥へ行ってしまった。どこも、変わらないんだなぁ…




 <なによ…あたしがいればそれでいいじゃない>



 俺が落ち込んでるのを見てジルが慰め?てくれる。



 「いい相棒を持ったな…俺は…」



 <……あた、あたりまえじゃない!>



 にしても、今日はいいこといっぱいだったなぁ。ジルと話せる薬にびや、げっふん。金も手に入ったし。手持ちの札と扉の模様を確認すると中に入っていく。基本この前の宿屋と変わらないが、ランプが無く窓が付いている。



「さってと、そろそろバラカやノキア、ゼルーとか採りにいかないとな」



 ノキアのほうはあって困りはしないだろう。ポケットの中の物をベッド近くにあるテーブルに出していく。途中、びや…媚薬の小瓶で手が止まった。




 「…本物…なんだよな、これ」



 試しに栓を抜いて、嗅いでみた。あまぁい臭いが脳に直接来る感じがして、すぐ鼻を遠ざけたが身体が熱くなってくる。やばいなこれ、塗り付けたらどうなるのか…。こっちにきてから発散させたことが無いため、ムラムラも簡単には収まりそうにない。




 <…?どうしたのコータ?>



 いや、なんでもない。と慌てて取り繕おうとしたのだが、慌て過ぎて中身をジルに降り掛けてしまった。あぁ…俺の媚薬が…




 <きゃっ…なに…これ…コータ、これってあのび、媚薬…じゃないの?>



 そう、あの媚薬だ。もったいないことをしたと俯いていたら、頭に軽い衝撃が伝わってきた。




 <…ほら、疲れてるんでしょ。もう寝よ?>



 まぁジルの言うとおりなのだけど…うん、このまま寝るか。ムラムラはまた、金が出来た時あの娼館にでも行こう。



 「それじゃあおやすみジル…」



 <ひゃっ…っっ>


 昨日の様にジルを抱いて目をつむる。ジルの声が聞こえたが俺が急に抱いたからだろう。ムラムラの事もあってか、寝付けないでいるともぞもぞと、股間の所で違和感がした。何事かと目を開け、シーツをめくるとジルのゼリーが俺のナニを包んでいた。…どうなってんの。




 <あっ…目、醒めちゃったんだ。ごめんね>



 元々寝てないからいいんだけど、ジルさんなにしていらっしゃるのですか。俺が言葉も出ないと口をパクパクさせていると、ジルがゼリーを口の中に入れてきた。ずっと前の一方的にするようなものではなく、ねっとりと舌をからみつける様な情熱的なものだった。口の中に広がる甘い匂いに、媚薬をジルに降り掛けたのを思い出した。されるがままになり身体も熱くなってきた俺は、辛抱できずズボンを脱いでしまった。これは媚薬のせいなんだ、丁度いいじゃないか、ここらへんで一発。




 <あ、ぅ…これがコータの…>





 そこからの記憶は未来永劫封印しておかなければならないだろう。



▼△▼△▼△▼





 「ジル…おやすみ…」



 <…はい、おやすみなさい―た>



 最後のほうはよく聞き取れなかったが大したことではないだろう。明日もジルと生き残っていられます様に。








少し長めに気合いをいれました

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