ここからが本番だ(6)
家臣たちの顔色がみるみる青白く、血色が悪くなっていた。
空は雲で遮られ、辺りは暗くなる。
空気は、水を含み重くなっていく。
ぽたっと水滴が落ちてきた。
(血なのか雨なのか・・・。)
辺りは先ほどの様に、戦闘態勢に溢れ返ることはなく、熱が引いていく。
皆がこちらを気にかけながら背後で戦っている。
味方も、敵も。
視線がビシビシ伝わる。
(・・・・。)
お坊ちゃんの家臣たちがまだ呆然としていたが、その中の一人が悲惨な声を上げた。
「このわたくしが、ご子息の敵取ってやるっ」
こちらに向かって走ってくる。
50歳くらいだろうか?
戦場には珍しく、年寄りがいたものだ。
感心までもしてしまう。
あまりにも必死な形相なので、無意味に迫力があった。
(なんて、愚かな家臣なのだろう?)
双剣の右側を最初に戦法を繰り出す。
左側を急所にしつこく狙ってくる。
(しつこい、戦術だ。)
足が一歩下がる。
手が止まる。
(な・・・・・なんだ・・。こ、この俺が押されている・・・。)
焦るなんて何年ぶりかと頭の脳裏に流れる。
腹に力を入れる。
頭をフル回転させる。
(どうしたら、この戦いを終わらせられるか・・・)
そのことだけを必死に考える。
そんな俺の事を追い込むように雨は降り続ける。
天は今回味方してくれなかった。
(状況が悪い。隙を見つけ出さなくては・・・。)
今回の戦いは、楽勝だと思ってたはずなのが・・・。
予想外の進展だった。
流れが相手についてしまったのだ。
剣が、右左から攻め込む。
(短剣相手は苦手なんだよな・・・。)
長剣を双剣に重ねるのは、難易度のいる戦い方でもある。
そう思ってた矢先、手の甲に剣が掠った。
2、3回交わしていたら、敵が俺の弱いところに連続で剣が振りかざされる。
「っっっづ・・・・・」
俺はうめき声を放ってしまった。
(失態。)
(視界が揺らぐ。眩暈がする。もしや・・・・)
敵は待ってましたとばかりに人の悪い笑みを向ける。
笑いに声までもが混じっていた。
「遅いぞ。お前は私とご子息に負けるのだ。」
敵の双剣は、猛毒が塗りこまれていたのだ。
頭が揺れた。
毒が体に染み込んでいく。
(しまった・・・。)
自分を悔やんでいたその瞬間。
手から力が抜けた。
その時、俺は剣を落としてしまった。
――――――――剣士としてもっとも恐れることを行ってしまったのだ。
またまた、遅くなりました。
読んで下さり、ありがとうございます!!




