婚約破棄をした王太子とその真実の愛の相手に最後まで付き従った男爵令息の話
「婚約を破棄する。エリザベーターよ。淑女教育とやらでいつもムスとしている顔に飽き飽きだ!
それに比べてデイジーの愛想、見習え!」
・・・あ~あ、王太子殿下、やっちまいやがった。
ここは学園の講堂。
殿下の隣にフワフワの伯爵令嬢、その周りには宰相、近衛騎士団長、宮廷魔道師長のそれぞれの令息とエリザベーター様の義弟が並んでいる。
それに対峙しているのは公爵令嬢エリザベーター様だ。
皆の耳目は集まる。
あ、俺?俺は王太子派の最下層、オットー・ブッカー、男爵家の長男だ。
せっかく次期政権に切り込めると思ったのに全てパアだぜ。
「・・・分かりました。後は王家と公爵家の話合いになりますわ」
その後、王太子派で会合が開かれた。
元々王命で婚約をしたのだ。これは王命無視に該当するか?
「何、父上は私を一番愛しておられる。父上は分かってくれるさ」
「そうです。慈愛の令嬢デイジー様が王妃になるのが相応しい」
「デイジー様のガイア伯爵家も後ろ盾になりますね」
「そうよ。お父様、私の事を溺愛しているわ。きっと他の家門も加わるわ」
皆、意見をするが讃美と楽観論だけだ。
俺は手を挙げて意見をした。
「殿下、最悪の事態を考えるべきです。いくら陛下が王太子殿下を愛しておられても、国家はまた別の生物です。殿下の婚約は王統派と貴族派の和解の象徴でした・・」
「黙れ!酒が不味くなるわ!」
「そうよ。心配しすぎたわ。園遊会で王妃殿下から何かあったらゲオ様を頼むと言われたのよ」
デイジーは元王宮のメイドだ・・・そりゃ。それくらい言うだろうと・・・
俺は黙れと言われたので黙った。
ブッカー男爵家の従者を呼び手紙を届けさせる。
「父上に連絡だ。ケビンを公爵家に接近させろとな」
「若・・・弟君のケビン様を?」
「どっちがこけてもブッカー家は残る」
「若、ご武運を」
「お前もな」
てな訳で、数ヶ月後、俺は殿下とデイジーのお伴をして国境付近の宿にいる。
寂れた女神教会内にある宿だ。教会内は王権不介入、訳ありカップルや王権に反抗した者が匿われたりもする。
☆☆☆宿
「そこのお前、策を述べろ!」
「グスン、グスン、こんなはずではなかったわ」
まずエリザベーター様の義弟は即破門され放逐。身分無しの平民になった。
宰相の令息は馬車で旅行中にガケから落ちて墜落死。
近衛騎士団長の令息は父上と剣の練習中に事故で死亡・・・
宮廷魔道師長の令息も研究中に爆発死・・・・
が公式だが粛清だ。
貴族は呼応せず。殿下は逃げる事を決断された。付いてきた者は一人消え。二人消え。遂に俺だけになった。
策を述べろと言われたので策を述べる。
「平民服に着替えて旅行者になって徒歩で国境を越えるのです。他国で冒険者になって下さい。このオットー、生活の目処が立つまでご一緒させて頂きます」
俺の口座は凍結されていない。念のためにブッカー家より為替で送ってもらっている。
王国は王子が他国に行って平民になるのなら許容する雰囲気があるのだと為替を持って来た従者から聞いた。
「却下だ!危険すぎる」
「ヒドいわ。冒険者なんて!馬車は?」
「平民は馬車に乗りません・・」
「もっとマシな策はないのか?王国に残れる策を述べよ」
「なら、殿下は去勢、デイジー様は子宮を潰し。王権に興味を無いことを示すべきです。そしたら国内に残れるでしょう」
「阿呆!もう黙れ!」
「グスン、グスン、ヒドいわ」
「そうだわ。お父さまにお手紙を書くわ!お父さまから許して頂けるようにお願いするわ」
「さすがデイジー!」
「それは悪手です!ガイア伯爵家は形勢不利となるとデイジー様を破門にしたではございませんか?それに居場所が公然となります」
「今は今よ!」
しばらくして、使者が来た。ガイア伯爵家の者だ。怪しい。
「殿下、デイジーお嬢様、旦那様が陛下を説得し復帰のお許しを頂きました」
使者は殿下と呼称する。まだ身分は剥奪されていない。二人の顔はパアと明るくなった。
「やっぱりデイジーの言った通りだ。我は弟の補佐に甘んじよう」
「ゲオ様、私は社交会で支えますわ」
使者は執事だ。後ろに大勢の騎士を従えている。
「ゲオハルト殿下、逃げるべきでございます」
一人二人なら剣を交えられる。それに隠し球がある。
「お前の意見は聞いてないぞ!」
だから、黙った。
教会を出たら、迎えの馬車には犯罪者用の鉄格子がついていた。
「ヒィ、何だこれは・・・」
「ゲオ様!」
「お二人は王国の名誉のために来世で結ばれようと心中をなさいましたと記録されます。名誉ある心中でございます」
「「ヒィ」」
「抑えて差し上げよ!」
「殿下!」
「王太子のご身分で死ねるのですよ」
「陛下の愛でございます」
俺は・・・
「お二人とも逃げて下さい!」
ボンと隠し球の煙幕弾を破裂させたが・・・・
二人はお互いに抱きかかえたまま縮こまっていた・・・
万事休すだ。
二人は王宮につれていかれ毒杯を給わり。
公式にはゲオハルト様は王太子殿下のご身分で、真実の愛に殉じるために心中をされたと記録された。
あ、俺は、そのまま袋叩きに合い。王宮へ連行された。
☆☆☆王宮
王宮の小広間に連行された。
そこには陛下と王妃殿下、王子王女、王族達を筆頭に公爵閣下、その令嬢のエリザベーター様、俺の弟ケビンもいる。そして、近衛騎士団長、宰相閣下、宮廷魔道師長がいた。
その他、見知った顔は早々と脱落した元王太子派の子弟とデイジー様の実家、ガイア伯爵がいた・・・
「ゴホン、オットー・ブッカーよ。ゲオハルトに対する所見を述べよ」
「はい、陛下、ゲオハルト殿下は何事にも正直な方でした」
俺は平伏したまま答えた。
「そもそも卿は何故、ゲオハルトに最後まで従った。派閥では一番下だったと報告にある」
「はい、父上から殿下をお支えしろと言われたからです。私は言われた事しか出来ない無能でございます」
「忠義と言われるよりはよほどしっくりくるな・・・」
これは正直に答えた。
「で、逃走資金はどうした?」
「それは・・・」
ブッカー家と言ったら、家に迷惑がかかる・・・
「良い。ここでの発言は非公開だ。余の名誉にかけて罪に問わない」
「は、実は実家より為替で送ってもらいました・・」
「陛下、口座が動かなかった道理が分かりましたな」
「うむ・・・質問を続けるぞ」
やっぱり早い段階で捕捉されていたのか?
俺は罪人として死罪だろうな。でも、家が残ればいいや。
俺は最後の様子まで洗いざらい話した。
「・・・最後、二人は身を寄せ合い。騎士に抑えられて捕囚馬車に押し込まれました。その後は見ておりません」
「そうか、正直で宜しい」
王妃殿下は終始、目を押さえ泣かれている。王族達は真剣なまなざしで聞いておられる。
陛下は最後、疲れたようにどっと背もたれに体を預けてため息をつかれた。
「全て余の責任だ」
「陛下、私の教育が悪かったのが原因でございます」
「妃よ。男子の教育は余の責任だ。忙しさにかまけて妃に任せすぎた・・・」
「イーダー公爵、エリザベーター嬢よ。迷惑をかけたな」
「とんでもございません」
「過分なお言葉ですわ」
厳粛な雰囲気の中で慰め合いが行われた。
「次は、皆の処遇だな」
陛下がつぶやかれると。ガイア伯爵が得意げに話し始めた。
「こやつ、オットーはゲオハルト様を逃がそうと抵抗しました。騎士が三人負傷しました。貴族の名誉とはほど遠い拷問の後に縛り首を具申します」
「ほお、そうか」
「そればかりか、煙幕を使い。小癪にも謀反人デイジーと殿下に覆い被さり。『逃げろ』と促しました」
「ほお、そうか・・・」
「この乱の一番の犯罪者です。どうか厳罰に処することを奏上したします」
「なら、オットー・ブッカーを王宮付にする。ガイア伯爵領の接収が終わるまでは王宮の客室に留まるが良い。次のガイア伯爵はオットーだ」
なっ?意味が分からない。伯爵の顔は困惑した。
「何故でございますか?私には嫡子がございます。デイジーは処分いたしました!他の列席の方々のように!」
名指しされた宰相達は・・・反論した。
「ワシは、泣きながら我が子に毒杯を飲ませたのだ」
「小生は・・・武人らしく対決をした・・グスン、背を見せて逃げおった。小生のふがいない教育のせいだ」
「我も、同じく魔道で対決したわ!」
どうやら、泣いて我が子を殺したか?の違いらしい。
すると、陛下は伯爵に答えた。
「ほお、嫡子が領地を継ぐ?卿も我が子が可愛いと思うのか?」
「な・・・」
陛下はガイア伯爵を無視してその他の元王太子派の子弟達に宣言を出した。
「その他の子弟達は懲罰大隊に配置を命ずる」
「陛下、私は早くから裏切り・・・いえ、殿下の居場所を報告しました」
「意味が分かりません。オットーは最後まで殿下に付き従いました!私が一番早く派閥を抜けました!」
「阿呆、だからだ。あんな息子でも我が子なのだ!」
どうやら、陛下は早くから殿下の居場所を捕捉していた。
俺の目論見通り他国に行き平民の身分で暮らすのなら見逃すつもりだったのだ。
ガイア伯爵がワザワザ連行したから処罰せざるを得なかった。
これが真相らしい。
そして、俺はガイア伯爵領を継ぎ。オットー・ガイアになった。
宮勤めはこりごりだと思っていたから良いかと思ったら、長になったらそれはそれで苦労する。
「あ、君たち、解雇!」
「「「そんな!」」」
下級使用人以外総入れ替えから始めるつもりだ。
これが陛下の御心らしい。
俺は言われた事しかできない無能だから仕方ない。
・・・その後、意外な事に公爵家より才媛を紹介され婚姻。才媛のおかげで領地経営は安泰であった。
人々は言われた事しかできない無能、陛下の心を動かしたと噂しあった。
尚、オットーが無能であったかは賢者の間で意見が分かれる。




