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ヘルメース神を斬る

〈春・自由夜來の雨も止んだぞえ 涙次〉



【ⅰ】


古代ギリシアの、オリュンポスの神々が* 日本に移住して來てから、どれだけの日々が過ぎたらう。で、オリュンポスの中枢を成す12神の末弟、ヘルメース神は、カンテラ、強いて云へば怪盗もぐら國王とも昵懇にしてゐた。カンテラにはヘルメースの「傾畸者」振りが好ましかつた。「傾畸者」と云ふのは、原哲夫氏の漫画、『花の慶次』でお馴染みの、あれである。「歌舞伎」の語源ともなつてゐる。華美に装つて、叛逆者振りをアピールした、戰國時代末期の武將逹の間でもて囃された風俗である。カンテラも「現代に蘇つた傾畸者」を自認してゐた。



* 前シリーズ第195話參照。



【ⅱ】


ヘルメース神は、鍔廣のペタソス(旅行者用の帽子)、有翼のサンダル、蛇形の握りが付いた杖、と云ふ伊逹な出で立ちで、天界・オリュンポス山、に擬へた富士山- と人間界とを自在に行き來してゐた。彼は神の傳令役だつたからである。其処に何故、もぐら國王が? と云ふ聲もあらう。ヘルメース神は「泥棒の守護神」でもあつたからだ。何しろ、彼自身、幼少の頃から手癖が惡く、兄であるアポローン神の牛を盗み、その腸を弦として、龜の甲羅の竪琴を造つたぐらゐであつたから、當然と云へば當然の如く、もぐら國王が懐くのも無理はない(ヘルメース神は、アポローンにその竪琴を捧げ、二人は和解した。アポローン神は樂藝の守り神である)。



【ⅲ】


そのやうに、ギリシアの神々は、人間の倫理からすると「惡」の部分も持つてゐる。後續の宗教、キリスト教に於ける「主」、或ひはイスラームのアッラーの圧倒的な善とはまた違つた、人間臭いところがあつた。



【ⅳ】


そんなヘルメース神に、【魔】が共闘を囁き掛けるのは、自明な事だつた。「私逹と組んで、この日本に一波乱を起こしてやりませう」、さう「ニュー・タイプ【魔】」の實権者に唆され、「それも面白さうだな」とつひヘルメース神が思つたのは、ほんの惡戲ごゝろからだつたのだが-



【ⅴ】


國王、「だうやらヘルメース神と『ニュー・タイプ【魔】』とで協定が結ばれたらしいぞ(ヘルメース神はその事を、親しい者らに吹聴してゐた。彼に惡氣がない証左であらう。彼はイノセントに過ぎた)。カンさんだうする? やつぱり斬るのか?」-カンテラ「うーん、難しいところだな。ヘルメース神を斬つて、俺逹に何の得がある?」-「それもさうだなあ。カネが落ちて來ないのは、確かだ」-それをいゝ事に、ヘルメース神は己れの「能力」を使つて、色々惡さを仕掛けて來た。



※※※※


〈ペーパーで尻拭く事を思ひ出すウォシュレット壊れ「こんなもんだろ」 平手みき〉



【ⅵ】


まづ彼は、もぐら國王の仕事の邪魔をして來た。嘗ての自分を思ひ出したからだ。國王が盗みに入らうとした現場に、先に現れ、お寶を横取りしてしまふのである。これには國王、困惑せざるを得なかつた。ほんの出來心とは云へ、友の仕事の妨げになるやうでは、ブーイングを免れる事は出來ないであらう。國王、「奴には行ひを正して慾しいな。自分が何をやつてゐるのか、奴には分かつてゐないんぢやないか?」-ヘルメースは、「己れ」と云ふものには、絶對の自信を持つてゐたが、その實いつしか「ニュー・タイプ【魔】」逹の術中に嵌まり込んでゐた。「ニュー・タイプ【魔】」逹は、カンテラ一味、及びその係累を、眞綿で首を絞め上げるやうに、攻めて來た。-「仕様がない。奴を斬るぞ」。



【ⅶ】


だがじろさん、先回りをして、國王の窮狀をオリュンポスの主神・ゼウスに訴へてゐた。「幾らカンさんでも、神を斬るのには抵抗があらう」と云ふ氣遣ひからである。ゼウス「此井、その話には噓偽りはないだらうな?」-じろさん「本人に直かに問ひ糺してみれば、分かる事だ」ゼウスとしても、【魔】の手先になつたのでは、12神の威嚴=沽券に関はる、と思つた次第。



【ⅷ】


ゼウス、内心の怒りを堪へながら、ヘルメースに靜かに問うた。「お前、【魔】に付くのか、それともまだ神でゐたいのか、どつちなんだ?」-ヘルメース神、つひ口が滑つた。「この日本には、昔のギリシアの混沌がない。この儘神でゐたつて、面白い事なんか何一つないでせう。私は【魔】になりたい」



【ⅸ】


結局、カンテラはヘルメースを斬つた。「おイタが過ぎるぞ、ヘルメース。しええええええいつ!!」。12神から一柱が拔け落ち、11神になつてしまつた。



【ⅹ】


だが、神と云ふものは、根本的には不老不死である。いつヘルメース神が蘇つて、カンテラ・國王憎し、と復讐を仕掛けて來るかゞ、讀めない。然し、「だうせカネにもならない仕事だ」と、カンテラは放つて置いた。-こゝから、カンテラ一味とヘルメース神との、熾烈な抗爭が其処に勃發してしまふのは、致し方ない事であらう。この話はいづれ改めて續きを書く。それではまた、アデュー!!



※※※※


〈冬薔薇の棘踏むビーサン春雨避け 涙次〉



PS: 元はと云へば、オリュンポスの神々とカンテラ一味間の不和は、月の女神セレーネーの、「絶世の美靑年」河邊寅美を永遠の眠りに就はしめん、と云ふ企てに端を發してゐた。その調停役に、ゼウスは何故か、魔界の* 果野睦夢を指名して來た。それも昔の話だが、根は深いのである。



* 當該シリーズ第53話參照。


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