第三話 不穏な夢
その夜、気がつくと、どこかじめじめとした暗い場所にいた。
ちゃぽん、と水滴が水面に落ちた音がして、見上げると鍾乳洞のような突起がみえた。
肌に湿った空気がまとわりつき、潮の匂いがする。ここは海の近くなのだろうか。
薄暗い中、道なりに進んでいくと、目の前に、しっかりした木製の大きな扉が現れた。
そっと手を触れると、扉が重い音を立て、ゆっくりと開いていく。
中は座敷になっており、周囲には灯籠が灯されている。
ゆらゆらと揺れる灯りの中、中央に誰かが座っていた。
近づくと、思わず、ひっと声が漏れる。
そこには1人の青年がいた。
何故か、その両手両足、首に至るまで、鎖で繋がれており、その先は床に縫い止められていた。
更に近づくと、青年が何か、呪文のようなものを呟いているのが聞こえてくる。
枯れた声で、脂汗をかきながら、何か必死に唱えている様子に声をかけようか迷い、屈んで顔を覗き込む。
「……えっ」
ーーその顔は、蓮くんに酷似していた。
朝になり、夢から醒める。
(……変な夢)
そう、ただの夢だ。少し湿った額を拭い、
私はいつも通り、学校へ向かう準備をする。
ざわつく気持ちを誤魔化すように、急ぎ目に自転車を走らせる。
待ち合わせ場所には、いつも通り読書をしながら、私を待つ蓮くんが居た。
ほっと胸を撫で下ろし、蓮くん、と声を掛ける。
蓮くんは少し驚いた表情をして、腕時計をみる。
「いつもより五分早いな。どうかしたか?」
いつも通り優しい蓮くんの言葉に、少し早く目が覚めただけだよ、と伝える。
そうかといい、自転車を押してくれる背中をみながら、昨晩の事を思い出す。
「蓮くん、染谷神社ってずっと昔からあるんだよね」
「そうだな、もう何百年も前からあるらしいね」
「じゃあ……稀血って聞いた事ある?」
蓮くんは、うーんと呟く。
「珍しい血の事だよな?昔祖父ちゃんに見せてもらった絵巻に、稀血がどうってあった気がするな」
「それ!!見たい」
はやる気持ちで、声が裏返り、頬が熱くなる。
「わかった。祖父ちゃんに言っておくよ」
そう言って、蓮くんはふっと笑った。
学校に着くと、玄関で綾人くんに会う。
「おはよう綾人くん」
「おはよう、ひなこ」
昨日はあの後大丈夫だったか?と耳元で囁かれて、私は小さく頷き、
「うん、大丈夫。ありがと」と囁き返す。
そんな私達の様子をみた蓮くんは、目を丸くした。
「お前たち、知り合いだったのか?」
「えっと……ちょっとね」
詳細を話すわけにもいかず、濁す。
蓮くんは、ふーーんとらしくとなく少し不満げな様子を見せた。
その後、私と綾人くんが親しげに話していた、という噂話はあっという間に校内に広がり、マコトとリコにも質問責めにあうのだった。




