第十四話 夢の繋がり
翌日の放課後、私は夢の話を2人に共有した。
綾人くんは、上を見ながら色々考えている様子だ。
蓮くんをみると、表情は強張っているのに気がつく。
「蓮くん?」
蓮くんは、半歩遅れて私の声に気がついたように、こちらを見る。
「あ、ごめん……その、鎖に繋がれてた人が俺に似てたって聞いて、少し驚いて」
綾人くんも頷いて言う。
「確かに。それにその妙な男女の事もきになる。これから起こる何かの表れなのか、それとも」
綾人くんは少し考えて、指を立てる。
「ーー過去にあった事、とか」
「……確かに、服装や髪型も昔っぽかったんだよね」
私は思い出しながら、ぽつりと呟く。
「昔…もしかしたら、祖先にあった事なのかもしれないな」
蓮くんがぽつりと呟く。
その目は、何か確信めいていて、私は少し違和感を感じる。
「祖先か、確かにあり得るかもしれない」
綾人くんも、蓮くんの発言に同調する。
「でもまだ情報が足りない。なにより、なんでひなこがそんな夢をみるのか……
ひなこがそういう夢をみるようになったのは、いつからなんだ?」
蓮くんに言われて、確か……と呟きながら思い出す。
「綾人くんと初めて会った日かな、うん、そうだ」
「なるほどな、綾人なのか、異形なのか、どちらかがトリガーになったのかもな」
蓮くんは顎に手を当て、悩みながら言葉を紡ぐ。
「吸血鬼は堕神から生まれた……神繋がりで、稀血をもつひなこと接触したことで何かが起こった……とか」
綾人くんと私は目を見合わせる。
「蓮くん、すごいねぇ!何だかあってそう」
「ああ、蓮、お前頭いいな」
「……2人の発言はちょっとアホっぽいぞ」
少し間をおいて、3人で笑う。
「ははは……とにかく、何か重要な鍵になりそうだな。また夢を見たら教えてくれ、ひなこ」
「うん!わかった」
力になれた気がして、嬉しくて、私はもっと頑張ろうと心の中で気合をいれた。
「廃病院に不審者が出るらしい、って噂だっけ」
私と綾人くんは、今、数年前に廃業になった病院に来ている。
「そう、その不審者っていうのが、濡れた帽子を被ってるらしくて、異形かもしれないと思ったんだ」
異形と何度か遭遇して、妙な共通点に気がついた。彼らはいつも、どこかしらが濡れているのだ。どこか水辺から這い上がってきたかのように。
「なるほどな……よし、次は上の階に行ってみるか」
病院の中は物が置きっぱなしで、荒れている。肝試しスポットにもなっているようで、最近捨てられたようなゴミもあった。
歩きながら、ふと今日の蓮くんの違和感を思い出す。
「最近さ、蓮くん少し様子がおかしくない?」
綾人くんに、ぽつりと呟くと、そうだなと頷かれる。
「わかる、少し元気がないよな」
「そうなんだよね……」
神社で話した時も、何か知っているけど隠してるみたいだった。
「まぁ、蓮のことだ。何か考えがあるんじゃないか?聞いてほしくなったら話してくれるだろ」
その時、思い切り聞いてやろう、そう言われて、私は頷く。
「うん……そうしよう」
(頼って欲しい事も、伝えた。きっと、大丈夫だよね)
胸のざわつきは治らないけれど、まずは今に集中することにした。
2階にあがると、受付用の開けたスペースがあり、壁に大きな絵画が飾られている。
絵画には、帽子を被りスーツを着た男性が、革張りのソファに座っている姿が描かれていた。
綾人くんはその前に立ち、事前に調べてきたフロアマップを広げる。
「1階には居なかったから2階にいると思ったが、この感じだと3階にいるのかもな」
……リンっ
異形が現れる時、いつも聞こえる鈴の音が聞こえ、私は背筋がぞわりと震えた。
どうしたんだ?と声をかけてくれた綾人くんの後ろで、絵画の中の男の目がギョロリと動いた気がした。
刹那、ぬるりと絵画から、男が抜け出し綾人くん目掛けて襲いかかってきた。
「綾人くん!危ない!」
私は無我夢中で、綾人くんを横に突き飛ばした。
「痛っ」
その時、腕に酷い痛みが走る。腕に大きな切り傷ができ、血がダラリと垂れている。
「ひなこ?!コイツっ……!」
異形をみると、鋭利な爪を持っており、その爪は私のものと思われる血で赤く染まっていた。
そして、ニタニタと笑いながら、その血をしゃぶるように舐めとる。
その瞬間、異形の目から禍々しい気配がずっと消える。
その瞳は正気を取り戻したかのように、澄んで見えた。
異形は私のほうに、頭を垂れ、まるで祈っているかのように両手を合わせた。
綾人くんは少し混乱した様子をみせながら、その異形の頭を潰した。
「一体今のは……っ……!」
腕の鈍痛はどんどん酷くなっていく。
「ひなこ!ごめん、俺を庇ったばかりに……」
ズキズキとした痛みを必死で誤魔化して、笑顔をつくる。
「全然、こんなのへっちゃらだよ。綾人くんが無事でよかった」
「ひなこ、人間はか弱いんだ。こんな、無茶はしちゃだめだ……」
そう言って、私の汗ばんだおでこを拭う。
痛みはどんどん酷くなっていく。
私は小さく呻き声をあげてしまい、それを聞いた綾人くんは、躊躇しながら提案をする。
「……傷を、舐めていいか?痛みを緩和できるから」
気持ちがいいものでは、ないけど……と付け加える。
その目は、後悔と心配と、様々な感情で不安げに揺れていた。
「ありがとう……お願い」
私がそう答えると、おずおずと傷口に綾人くんの唇が触れる。
触れられたところが熱くなるのと反対に、傷の痛みが引いていくのを感じる。
綾人くんをみると、眉間に皺を寄せ、苦しそうな表情をしている。
本能を抑えるためだろう、強く立てられた爪により、太ももからは血が滲んでいる。
だが、私の傷口に触れる唇は、壊れものを触るように、そっとゆっくりと動いている。
「痛み、引いてきたよ。綾人くんのおかげだね。ありがとう」
自分を抑えて、優しく接してくれる綾人の気持ちが嬉しくて、私は堪えきれず涙が溢れる。
そんな私をみて、綾人くんの赤い瞳が大きく揺れる。
そして、私の頬に手を添えて、顔が近づく。
だが、唇を噛み締めて、顔をまた少し離し、
額にキスを落とした。
◆◆◆
祠の扉の間から、ぬっと漆黒の指のようなものが現れ、扉を中からこじ開けようとする。
その少しだけ開いた隙間から、禍々しい瘴気が外に溢れ出て、煙のようにとめどなく広がっていった。




