表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖ノ影(あやかしのかげ)  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/130

第八十八話「見えざる掃除夫」

“働きすぎた”という呪いは、

時に、死んでも解けない。

だが、誰かの言葉が――

その魂を、解放することがある。

依頼は、都心のとある中堅広告会社からだった。


「深夜、誰もいないはずのオフィスが……

 朝になると完璧に掃除されてるんです。

 ホワイトボードに消した覚えのないメモ。

 提出していない資料が、完成された形でプリントされていたり」


最初は社員の善意かと思われたが、

防犯カメラには“誰も映っていない”。


それどころか、その現象に気づいた社員が次々と休職していく。


理由はみな口をそろえて言った。


「“誰かが見ていた”気がして、もう戻れない」


俺がオフィスに入ったのは午前2時。

ビルの明かりは落ちていたが、エレベーターは最上階で勝手に止まったままだった。


執務フロアは、異様なほどに静かだった。


机は整頓され、資料は色分けされてトレイに収まっている。

不自然なまでの完璧さ。

それは“人の手”によるものではなく、“習慣に取り憑かれた者”の仕事だった。


午前3時ちょうど。

ホワイトボードに、何もなかったはずの面にゆっくりと、黒い文字が浮かび上がる。


「優先タスク:会議資料/社内報告/定期清掃」


まるで、**死んだ誰かの“業務リスト”**のようだった。


俺はビルの管理記録を洗い、ある名前に辿り着く。

杉山賢一。

10年前にこのビルで過労死した元社員。

残業の果てに倒れ、そのまま朝まで誰にも気づかれなかった。


彼の仕事机は、今も同じ場所にあった。

彼が使っていたIDカードは、未だにシステムにログイン記録を残していた。


「彼は、いまだ“仕事”を続けている」


俺は深夜3時半、ホワイトボードの前に座り、一言だけ書いた。


「杉山さん、お疲れ様でした。

 もう、帰っていいんですよ」


静寂。

一瞬、全フロアの蛍光灯が一斉に点滅し、そして沈黙が訪れる。


翌朝、ホワイトボードは白紙に戻っていた。

社員のひとりが言った。


「……あれ以来、誰かの視線を感じなくなりました」

次回・第89話「井戸の底の声」では、

都市再開発の進む地域で見つかった“封印された井戸”。

そこに耳を近づけると、誰かの名を呼ぶ声が聞こえるという。

探偵は、“埋められた過去”の声に耳を澄ます――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ