表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖ノ影(あやかしのかげ)  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/128

第八十六話「白い踊り場」

昇ることは、

生きることに似ている。

だが、“終わりのない上昇”は、

時に人の足元を喰らう。

都内の再開発地区。

取り壊し寸前の廃ビル・第七日光ビル。

その非常階段で、数名の若者が“行方不明”となった。


残されたのは、1人の男の記録映像。


「階段を昇るごとに……何かが変わっていく。

 途中で、踊り場の色が“白く”なったんだ。

 あそこから、戻れなかった」


映像が止まる直前、画面が一瞬ブレる。

白い壁。白い床。白い天井。

だが、音だけが“どこかの群衆のざわめき”のように、微かに聞こえていた。


俺が現地に到着したとき、ビルの外観は古びていたが、外階段だけはやけに綺麗に保たれていた。

管理者に聞いても、掃除した記憶はないという。


「あそこは誰も触ってない。

 けど、妙に……新しいんだよな」


非常階段を上り始める。

1階、2階、3階……と、何も起きない。


だが、7階の踊り場だけ、明らかに様子が違った。

白い。無機質すぎるほどに。


そして、足音が“吸い込まれる”。


俺の後ろに誰かがいる――そんな錯覚を覚える。


「ここ、上に行くと、もっと“上”が見えるんですよ……」


それは以前に行方不明になった青年、立花の声だった。


俺は彼の記録を元にさらに調べ、ある事実に辿り着く。

このビルにはかつて自己啓発セミナー会社が入っていた。

「成功の階段」という名のプログラム。

昇るごとに“自己評価を高め、他者を見下ろす快感”を覚えるという洗脳的手法だった。


「上に行けば行くほど、自分は特別になれる――」


その思想が、異形の“階段”そのものに染みついていたのだ。


俺は白い踊り場で立ち止まり、声をかける。


「もう、十分だろう。

 “上”には、誰もいない。

 いるのは、自分の影だけだ」


一瞬、空気がうねり、白い壁が薄く揺らめいた。

どこからともなく、人影が何人も現れては、溶けていく。

――過去に迷い込んだ者たちの残滓だろう。


やがて、白い踊り場は音もなく、普通のコンクリ壁に戻っていた。


数日後、行方不明だった青年の1人が、自宅で目を覚ました。

こうつぶやいたという。


「夢を見てた……ずっと昇ってて、

 最後に、誰かに“もういい”って言われた」

次回・第87話「燃えない神棚」では、

取り壊し現場で“燃えずに残った神棚”を中心に起きる連続事故。

消えない祈りと、鎮められなかった神の記憶に迫る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ