第八十話「凍える家族写真」
写真は、
過去を閉じ込める棺でもある。
だが、想いを取り残せば、
その中の者は、凍りついたままになる。
郊外の住宅街にある一軒家。
冬の朝、凍えたように冷えきった室内で、4人家族の変わり果てた姿が発見された。
一家心中――と報じられたが、違和感があった。
現場は“完璧すぎた”。
食卓には朝食の名残。
歯ブラシは濡れていた。
室温は低く、まるで冷蔵庫のような空間だった。
俺のもとに依頼が来たのは、警察関係者からだった。
「現場にあった写真が、どうもおかしい。
……家族は4人のはずなんだが、写っているのは5人だった」
渡された写真には、両親、姉妹、そして中央に座る“顔のぼやけた人物”。
子どもでも、老人でもない。
だが存在だけははっきりしている。
俺は周囲を聞き込み、旧隣人からこんな証言を得る。
「あの家には、昔“もうひとり”いたのよ。
でも……亡くなったことになってて……ねぇ、忘れたほうがいいわよ」
さらに調査を進めると、一枚の死亡診断書が浮かび上がる。
7年前――事故死として処理された“長男”がいた。
だが、火葬の記録はどこにもなかった。
夜、俺は現場に再訪した。
冷たい空気の中、家族の団らんを思わせる雰囲気だけが不気味に漂う。
ふと、写真立てが落ちた音がした。
拾い上げると、裏側に何かが刻まれていた。
「ぼくも、ちゃんと家族だよね?」
その瞬間、背後でふすまが“すうっ”と開いた。
誰もいないはずの廊下に、濡れた足跡が一つ、奥の部屋へと伸びていた――
俺はそっと言った。
「お前は確かに、家族だった。
だけどもう……戻るべき場所は、ここじゃない」
廊下の奥、誰もいない部屋で、なぜかストーブの火がついた。
その暖かさと共に、家全体の冷気が、ゆっくりと溶けていった。
写真の“5人目”も、跡形なく消えていた。
次回・第81話「影の遺言」では、
亡き資産家が遺した“読んではいけない遺言状”。
開かれた瞬間、家族に襲いかかる“影の災い”とは――。




