表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖ノ影(あやかしのかげ)  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/127

第七十七話「消えた記憶」

記憶は宝ではない。

それは時に、刃にもなる。

それでも、

人は忘れたくない何かを探し続ける。

冬の午後。

探偵事務所の扉を開けて入ってきたのは、見るからに疲弊した中年男だった。


「……俺の記憶を、探してほしい」


名を北条真ほうじょう まことというその男は、三日前、自宅近くの公園で意識を失って倒れていた。

目覚めると、自分の名前と職業以外の記憶が、ごっそりと抜け落ちていたという。


奇妙だったのは、彼が持っていた古い写真。


そこには、見知らぬ少女と写る自分の姿――

しかし、背景は完全に黒く塗りつぶされていた。


調査を始めた俺は、彼の過去にまつわる断片を掘り起こしていった。

職場の同僚、かつての友人、疎遠になった家族。

どこか皆、口を濁した。


「……あいつのことは、もう思い出したくない」


誰もがそう言う。まるで、“思い出すこと”が禁忌であるかのように。


やがて、一人の老看護師が口を開いた。


「あの人、娘さんを亡くしたんです。

 数年前、心中事件で――でも遺体は、彼女の分しか見つかっていない」


男の記憶が欠落したのは、ある日突然ではなく、

思い出さないよう“自ら切り落とした”ものだった。


写真の黒く塗られた背景には、その現場が写っていた。

愛娘と最後に立った、高台の崖。


俺は男に真実を告げなかった。

代わりに、こう言った。


「思い出すべき記憶と、

 忘れて生きるべき痛みは違う。

 君は、まだ生きている。

 それだけが事実だ」


男は黙って頷き、写真をそっと鞄にしまった。

扉を閉める彼の背は、少しだけ軽くなっていた――ように見えた。

次回・第78話「顔のない訪問者」では、

毎晩訪れる“顔のない客”と、密室で消えた鍵の謎。

探偵は、見るべきものを失った者の足跡を追う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ