第七十三話「影の糸車」
運命の糸は、
誰かが紡ぐものではなく、
自らが選び取るもの。
影は常に、隣にいる。
薄暗い路地裏に佇む、小さな骨董店。
そこに住む老婦人・黒川妙子は、古い糸車を大事そうに扱っていた。
彼女の話によると、その糸車はただの機械ではなく、
過去と未来を紡ぐ“影の糸車”だという。
妙子は言った。
「この糸車を回せば、運命の糸が見える。
だが、間違って糸を引き寄せると、影に呑まれる」
俺は彼女の話に半信半疑だったが、糸車に触れた瞬間、異様な冷気が全身を貫いた。
糸車の回転と共に、視界が歪み、過去の記憶や未来の断片が映し出される。
そこに映ったのは、かつての探偵が関わった事件の断片。
被害者や加害者の影が絡まり合い、糸車の影がその間を紡いでいた。
妙子は警告した。
「運命は紡がれるものだが、
それを無理に変えようとすると、影は牙を剥く」
その夜、俺は夢の中で糸車に呼ばれた。
そこには影の姿をした存在が現れ、こう告げた。
「お前の歩む道も、我が影に繋がっている」
目覚めると、糸車は静かに止まっていた。
俺はこの糸車がもたらす未来の影をどう扱うか、思案した。
次回・第74話「消えた約束」では、
幼馴染の消失と、彼女が残した一枚の手紙。
探偵は記憶の迷宮を彷徨い、約束の真実を探す。




