第七十二話「氷の棺」
封じられた記憶は、
氷の中で静かに眠る。
だが、凍てつく闇も、いつかは溶ける。
冬の深い山中。
古びた山小屋の調査依頼が舞い込んだ。
依頼人は地元の山岳ガイド、安藤誠。
彼は小屋の周辺で不審な気配を感じ、何かが封じられていると告げた。
小屋に着くと、扉は固く閉ざされ、雪に覆われていた。
内部に足を踏み入れると、薄暗い室内の中央に、氷でできた棺のような塊があった。
氷の中には、一人の少女の姿が――まるで眠っているかのように静かに閉じ込められていた。
安藤の話によると、その少女は30年前に行方不明となった地元の少女、真琴。
村人たちは彼女の失踪を悲しみ、長い間心の傷を抱えてきたという。
俺は棺を調べながら、少女の体温や保存状態を計測。
科学的にはありえない冷凍保存だが、霊的な封印の可能性も捨てきれなかった。
夜、山小屋に一人残り、俺は少女の名前を呼んだ。
「真琴……何があった」
静寂の中、微かに少女の口元が動いたように見えた。
そして、小さな声で囁く。
「許して……」
調査を進めるうちに、真琴の失踪には、山の呪いと呼ばれる古い伝承が絡んでいることが判明。
その伝承では、山に迷い込んだ者は“氷の牢獄”に囚われるという。
真琴は、恐らく村を守るために身を犠牲にし、
その記憶を封じられたのだった。
俺は決心し、棺の氷を少しずつ溶かすことにした。
すると、氷の中で微かに動いていた少女の瞳が開いた。
彼女の口から、真実の物語が紡がれる――
次回・第73話「影の糸車」では、
謎の老婦人が持つ、奇妙な糸車。
それが紡ぐ、過去と未来の“影”の物語。




