第七十一話「赤い糸の先」
赤い糸は、
人と人を繋ぐだけではない。
時には、過去の呪縛を結びつける。
都心の一角にある老舗和菓子店『桜井屋』。
創業百年の歴史を誇るが、女主人・桜井京子は、最近、奇妙なことに悩まされていた。
「赤い糸……それが見えるんです。
誰の糸かわからないけど、切れなくて……」
彼女は一人、店の奥の古い箱を開けてみせた。
中には、古びた糸巻きと共に、一本の赤い糸が絡まっていた。
話を聞くうちに、俺はこの糸がただの飾りではないと確信した。
数年前、桜井屋の跡取り息子が不慮の事故で亡くなった。
それ以来、京子は糸にまつわる不吉な影を感じていた。
調査を進めるうちに、俺は過去の記録を掘り返した。
糸は、かつてこの店の女中が縫い付けたもので、呪詛の道具として使われていた可能性があった。
「恋人の裏切りを恨んだ女が、
赤い糸に呪いを込めたんです」
夜、店の縁側で糸を手にした俺は、呪いを解くための儀式を始めた。
だが、糸の先から不意に強い力が襲いかかる。
激しい風と共に、店内の古い写真や和菓子が散乱した。
京子は震えながらも、「止めて」と叫んだ。
儀式の最後に、俺は糸を切った。
すると、糸の中から封じられていた記憶が解放され、彼女の怒りと悲しみの声が消えた。
翌朝、桜井屋には久しぶりの晴れ間が差し込んだ。
京子は深く息を吐き、「これで終わった」と言った。
次回・第72話「氷の棺」では、
凍てつく山小屋で見つかった謎の棺桶。
中に眠る少女の秘密と、氷の下に封じられた記憶が明かされる。




