第六十一話「贖いの日」
罪に蓋をしてはいけない。
だが、許すことができるのもまた、人間だけだ。
“影”と共に生きていく――
それが、この村の選んだ答えだった。
夜が明けた。
赤い目の“鬼”は消え、少女――沢渡こよみは村の中央で静かに眠っていた。
俺は、彼女のそばに寄り添う紗夜と立っていた。
村人たちは誰も声を出さない。ただ、沈黙が流れていた。
「……どうすればいい」
その言葉を最初に漏らしたのは、かつて沢渡家に石を投げた男だった。
彼は泣いていた。
頬に深い皺を刻みながら、地面に膝をついて、拳を握りしめていた。
「全部……村を守るためだと思ってた。
あの家だけが、あの女だけが、鬼だったと……
信じたかった。信じるしかなかったんだ……!」
老人も、女も、若者も、ひとりずつ、
沢渡こよみに頭を下げた。
誰ひとり言葉にならないまま、ただ――
黙って背を曲げた。
俺は言った。
「謝ることは終わりじゃない。
だが、始まりにはなる。
この村が、“影”に向き合えるかどうかは、
この日からの、お前たち次第だ。」
その日、村の入り口に立っていた“封印石”は、
村人の手によって地中に戻された。
もはや封じる必要のない“影”。
それは、心に住まうものとして――
一生、共に生きるものとなった。
沢渡こよみは、紗夜とともに山のふもとの家で暮らすことになった。
誰も彼女を「鬼」とは呼ばなかった。
村を後にする俺に、こよみは小さく手を振った。
その瞳はもう、赤くなかった。
次回、第62話は――
村を離れた探偵のもとに、新たな依頼が届きます。
次の“影”は、どこに潜んでいるのか。




