第六十話「鬼は誰か」
“鬼”はどこにもいなかった。
いたのは、闇の中で泣いていたただの少女。
真実を見た時、人はようやく自分の影と向き合うことができる。
村を包む闇が濃くなっていく。
まるで空気そのものが“影”になったかのようだった。
俺は紗夜とともに、村の中心――かつて祭礼が行われていた広場へ向かった。
広場の中央には、壊れた祭壇。
その周囲に、村人たちが集まりつつあった。
「鬼が……また出た」
「あれは沢渡の子供が化けて出たんだ……」
囁きと恐怖が、村を満たしていく。
紗夜が前に出て言った。
「“鬼”はもういない。
いるのは――あなたたちの心の中の影。」
村人たちは言葉を失った。
そのとき、俺の背後で物音。
赤い目――例の“影”が、俺の目の前に立っていた。
ゆっくりと、影の輪郭が変わっていく。
少女の姿。小さな、震える肩。
やせ細った手。顔を上げたその子は、紛れもなく――
沢渡家の三女、生存していた少女だった。
彼女は口を開いた。
「……どうして、みんなが鬼にしたの?」
「お母さんも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、
私を逃がしてくれたのに。
なのにみんな、私たちを鬼にした……」
涙を流しながら、彼女は地面に座り込む。
その姿を見て、村人たちの顔色が変わる。
ある老爺が、呟いた。
「……わしらが……殺したのか……?」
俺は言った。
「そうだ。
だが――贖えない罪ではない。」
赤い目の“鬼”は、少女の影だった。
恐怖が、罪が、“鬼”という形を借りて現れていただけだった。
今、ようやく少女が人としてここに立っている――
その事実が、封印よりも強い“答え”だった。
物語は大きな転機を迎えた。
第61話では、村の人々が選ぶ“贖罪”と、
探偵が見届ける結末が描かれます。




