第五十六話「黒雲の夜」
闇が迫る時、
選択はただひとつ。
立ち向かうか、逃げるか。
空が鉛色に染まり、分厚い黒雲が村を覆った。
風は唸り、枯れ枝が地面を叩く。
村の人々は家々に閉じこもり、窓には板が打ち付けられた。
俺は手にした懐中電灯を握りしめ、集会所に急いだ。
村の若者数人と顔を合わせ、異変の報告を受けた。
「井戸水が濁り、家畜が次々と倒れている。
何かが、村を蝕んでいる。」
その時、不意に集会所の外で、鈍い轟音が響いた。
俺たちが飛び出すと、村の入り口にあった古い木の門が、黒い影のような何かに叩き壊されていた。
赤い目が光り、夜の闇に紛れている。
“鬼”の影が、確かにそこにあった。
村人たちは恐怖に凍りつき、パニック寸前。
俺は冷静さを保ちつつ、影の正体を見極めようと目を凝らした。
“鬼”は姿を変え、まるで風のように村を駆け回っている。
それは人間の形ではなかった。
「このままでは村は滅びる――」
俺は心の中で呟き、
村の奥にある古い神社へと向かった。
そこには、封印のための“聖なる石”があるはずだ。
今、封印を強めるしかない。
霧の中、足元を照らす光が揺れる。
背後に赤い目を感じながら、俺は先を急いだ。
村に迫る黒雲は、
単なる天候の異変ではない。
それは“呪い”の形。
次回、第57話で、俺は神社で封印の儀式を試みるが、
そこで意外な人物と遭遇することになる。




