第四十七話「発信履歴ゼロ」
使っていないはずのスマホ。
そこに残る、知らない番号からの着信。
人は簡単に“接続”を切れるけれど、
想いの方は、まだ繋がっているのかもしれない。
「……使ってないスマホなんです。電源すら入れてない時期もあって。
でもある日、着信履歴が残っていて。知らない番号。
それも一回じゃない。“毎晩、同じ時刻に、かかってきてる”んです。」
依頼人は、フリーランスのデザイナー。
仕事用に購入したが、今は予備機として机の奥に放置していた端末。
ふと思い立って起動したところ、着信履歴が十日分も連続で記録されていた。
着信時間は毎晩、午前3時33分。
俺は実際にそのスマホを預かり、調査を行った。
キャリアは解約済、SIMも抜かれている。
にも関わらず、通話ログには“番号あり”で記録が残っている。
ただし、発信元の番号は――000-0000-0000。
留守電も録音もない。だが一件だけ、“発信履歴”があった。
依頼人が発信したことのない、20秒間の通話記録。
俺は端末の音声ログを解析した。
その通話に、わずかだが**“呼吸音のようなもの”**が入っていた。
さらに、ある周期で微弱な電子音が記録されている。
音波パターンを解析した結果、モールス信号と一致した。
内容は、こうだった。
「……みつけて。
ここにいる。
しらないまま、わすれないで。」
依頼人に確認したところ、
このスマホの番号は、数年前まで彼女の双子の妹が使っていたものだという。
事故死している。
依頼人はその端末を引き継ぎ、解約・保管していた。
死の直前まで、妹はこの端末で何度も通話を試みていたらしい。
通話履歴の一部は削除されていたが、
端末内部のログには“未接続通信試行”が残っていた。
俺は報告書にこう記した。
「SIM無搭載端末における発信履歴自動生成現象」
「通話先不明、番号未登録。信号内容にモールス符号混入あり」
「発信者と推定される過去所有者に死亡記録。通信記録の一部と重複性」
「実害なし。だが受信継続による心理負荷懸念あり。端末保管か廃棄推奨」
依頼人はしばらく端末を見つめたあと、
それを静かに引き出しに戻した。
そして、こう言った。
「――また、3時33分にかけてきたら。
そのときは、出てみようと思います。」
通信は終わっても、
想いが、そこに残っていることがある。
呼ばれたのではない。
「忘れないで」と、小さく囁かれていただけなのだ。
声がなくても、言葉がなくても、
繰り返される着信には、“届いてほしい”という祈りが込められている。
誰にも届かなかった通信――
それが、ある日、ようやく“応答された”とき。
ようやく、沈黙になる。




