表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖ノ影(あやかしのかげ)  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/127

第三十話「三回、返事がない」

ノックの音には、“応答を期待する意志”がある。

でも、すべてのノックに返事をする必要はない。

特にそれが、“どこからか分からない音”であるならば。

「毎晩、同じ時間に“引き出しの中からノック音”がするんです。

 しかも、一回、間を置いて二回――毎晩きっちり、三回なんです」


 依頼者は、古本屋の店主。

 住居兼店舗の2階にある和室の箪笥、その最下段の引き出しだけがガムテープで封印されていた。


 先代の店主(依頼者の祖父)は、生前「絶対に開けるな」と言っていたそうだ。

 そして亡くなってから三日目の晩、初めて“ノック音”が始まった。


 引き出しは空けていない。

 でも、内側から小さく“コン……コン、コン”と音がする。

 まるで、そこに何かが閉じ込められていて、返事を求めているようだった。


 俺は夜、依頼人と共にその和室に待機した。

 23時32分。

 まるで時計仕掛けのように、その時刻になると音が鳴った。


 コン……(2秒)……コン、コン


 音ははっきりしていた。硬質な木を小さく叩くような音。

 俺が録音を確認している間にも、依頼人は顔を青くして呟いた。


 >「子供のころ、聞いたことがあります……。

  あの引き出しの前で、祖父が何かに向かって“黙っておれ”って言ってたのを……」


 俺は箪笥の製造元を調べ、古い職人記録にたどり着いた。

 昭和40年代、京都の民俗収集家が依頼した特注品で、“隠し箱”を仕込んだ造りになっていた。


 つまり、通常の引き出しの奥に、もう一層の“空間”がある。

 開かずの引き出しの中には、まだ何かがあるということだ。


 俺は引き出しの封を解き、慎重に引き抜いた。

 奥には板が張られ、釘で封じられていたが、

 その隙間からは、うっすらと檜の香と古紙の匂いが漂っていた。


 板を外すと、中には小さな布袋と一枚の紙が入っていた。


 袋の中身は、人形の首だけだった。

 顔は削れており、目の部分には赤い絹糸が何重にも巻かれている。


 そして紙には、達筆でこう記されていた。


「この子は返事を待っている

  声をかけてはいけない

  名を呼んではいけない

  三度目の音が合図

  返せば ここに来る」


 俺は報告書にこう記した。


「対象箪笥の内部に封印物と注意文書を確認」

「ノック音は固定された時間、固定された回数にて出現」

「存在は“応答を得ること”により顕現・接触段階に移行する恐れ」

「被害未確認。封印の解除は最小限とし、再施封・除念を優先」

「応答行為の完全禁止を依頼者に厳重指導済み」


 俺は布袋ごと、専門の供養士に引き渡した。

 引き出しは再封印し、今後も開けないことを依頼人と取り決めた。


 以降、ノック音はぴたりと止んだ。


 封印とは、過去の誰かが“何かを終わらせようとした証”。

 だがそれは、声をかけてしまえば、また始まってしまう。


 返事をするという行為は、

 それが“人”ではないとき、呼び水になるのだ。

三回目のノック。それが合図だと誰かが書き残したなら。

それは、過去に一度、返してしまった者がいたということ。


返さなかったことが、きっと正解だったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ