第百十七話「水底の少女」
水底には、沈んだ命の記憶が眠る。
そして、笑う人形は、忘れられぬ魂の証。
山間の静かな湖畔。
そこは、夏になると家族連れが訪れる名所だった。
依頼者は、湖のほとりで小さな民宿を営む老夫婦。
「先月、湖で少女が行方不明になり、捜索が続いている。
だが、湖の底に沈んでいたのは、少女の持ち物の人形だけだった」
事故現場を調べると、湖底の泥の中に、
小さな、口を大きく開けて笑う人形が沈んでいた。
少女のものと判明し、だが本人は見つかっていない。
俺は湖の水質や水流を調べ、専門家に相談した。
その結果、湖は浅いが、底に小さな穴が複数存在し、
その穴が少女を引き込んだ可能性が高いことがわかった。
さらに、湖畔の森の中で、
少女が湖の中に消えた当日、同じような笑い声が聞こえたという証言を得た。
俺は湖のほとりで、静かに祈った。
「水底に沈んだ少女よ、どうか安らかに」
後日、少女の遺体は見つかったが、
遺体は自然の摂理とは違う状態で、微笑みを浮かべていた。
次回・第118話「闇に紛れる声」では、
街灯の消えた夜道に響く、謎の声。
それは誰のものか――。




