第百十六話「消えた足音」
消えた足音は、
消えた人の未練の声。
ある夏の深夜。
東京都内の古い木造アパートで、
階段を上り下りする足音が繰り返し聞こえるという。
依頼者は、そのアパートに住む女性。
「夜中に階段の音が聞こえるが、誰も住人が出入りしていない」と訴えた。
俺は現地を訪れ、深夜に待機。
時刻は午前2時。
静寂の中、ぎしぎしと木の軋む音が響き始める。
足音は、まるで誰かが何往復も階段を往復するかのようだった。
だが、目を凝らしても、住人は一人も動いていない。
調査の結果、数年前にこのアパートで、
若い女性が転落事故で亡くなっていたことが判明する。
彼女は、階段で足を滑らせて転落し、
部屋へ戻れずに命を落としたのだ。
翌日、俺は管理人から聞き出した。
「事故の直後から、階段の音は聞こえなくなった。
しかし、1年後からまた夜になると戻ってきた」
俺は深夜、アパートの階段で静かに待った。
そのとき、背後に冷たい風が吹き抜け、
足音が近づいてきた。
だが振り返っても、誰もいない。
俺は彼女の残した足跡の痕跡を見つけられなかった。
だがその日以来、足音は聞こえなくなったという。
次回・第117話「水底の少女」では、
湖で消息を絶った少女の謎。
水底に残された“笑う人形”が意味するものとは。




