第百二話「死んだはずの通話」
死とは、
終わりではなく、
“確認されること”で確定する。
俺のスマートフォンが鳴ったのは、午前2時13分。
表示された名前を見て、手が止まった。
“沢村 拓海”
三年前、交通事故で亡くなった親友の名前だ。
着信音は止まらない。
まるで、生きている誰かが本当に電話をかけているように。
躊躇いながらも通話ボタンを押すと、
耳元から、あいつの声がした。
「もしもし、霧島? ……ごめん、起こしたか?」
いつもの、軽い口調だった。
「……拓海、なのか?」
「うん。オレ、まだ死んでなかったみたいなんだ」
沢村拓海。
俺と同じ高校、同じサークル、
最後に会ったのは――あいつの通夜だった。
あれは確かに本人だった。
顔も、声も、笑い方も覚えている。
……なのに、今、会話をしている。
「なあ、霧島。
俺さ、“あの事故”のとき、
ほんとは、まだ呼吸があったらしいんだよ」
「でも、気づいてもらえなかった。
だから今も、どこかで……
“電話口にいる”んだと思う」
「変だよな? 死んだことになってるのに、さ。
でもお前のことだけ、どうしても思い出せたんだ」
背筋が冷たくなる感覚。
これは、霊でも幻聴でもない。
**“生きようとしている者の声”**だ。
俺は問いかけた。
「……どこにいる?」
「それが分からないんだ。でも……暗い場所だ。
ずっと誰かの声が響いてる。
……“ここはもう、お前の居場所じゃない”って」
そして、こう続けた。
「お願いだ、霧島。オレが“本当に死ねるように”、
一度、見つけてくれないか?」
翌朝。
俺は事故現場の資料を洗い直した。
発見された遺体には、微弱な呼吸の痕跡があった可能性が報告されていたが、
搬送時には“心肺停止”と判断され、解剖もされなかった。
死亡確認後、火葬されるまでの2日間。
安置された斎場の一室には異常低温と通信障害が一時的に発生していたという記録も。
まるで、“何か”が外との繋がりを遮断していたかのように。
俺は斎場跡地に向かい、あいつが安置されていた部屋の壁に、
昔一緒に撮った写真をそっと貼った。
その夜、スマホがまた鳴った。
「……ありがとな、霧島。
おかげで、ようやく、静かになれたよ」
声は、どこまでも穏やかだった。
「お前が最後にオレを“思い出してくれた”こと、
たぶん、それが――
オレが“死ねた”理由だったんだと思う」
通話は、それきり切れた。
履歴には、**“番号不明”**とだけ残っていた。
俺はスマホを伏せて、ただ黙って手を合わせた。
次回・第103話「笑わない子供」では、
笑顔を一切見せない保育園児のまわりで、笑い声だけが響く怪現象が起きる。
笑っていないのは、本当に“その子”なのか――




