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新約・精霊眼の少女  作者: みつまめ つぼみ
第3章:金色の輝き

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63.合流(2)

 これはトネリコの葉っぱ、かな。


 この季節なら、どこでも手に入る有り触れたものだ。


 ――私の右目では、そう見えた。


 左目に映るそれは、透き通った濃密な魔力の塊だ。


 この世のものではあり得ない、圧倒的な魔力濃度。


『それは君の魂に紐づけてあるから、他人は使えないよ。

 そもそもあの場所は、精霊眼の持ち主しか来られない場所だしね』


 自分だけでも、緊急避難先があるのは心強い。


 何かに襲われても、この葉っぱを持っていれば逃げ出せる。


 ネックは時間の進み方が違う所、かな。


 あそこでのんびりとしてたら、時間のずれが大きくなる。


 今回のように、問題が出てくるはずだ。


 あの場所はきっと、神様の世界。


 人間の私は、なるだけあそこに立ち入らないようにした方がいい。


 私は大切にトネリコの葉っぱをポケットにしまい込んだ。


『さぁ、最初の友達が合流する頃だよ。

 迎えに言ってあげなさい』


 言われたとおりに立ち上がり、私は遺跡の入り口に向かった。



 私の目に四人の人影が映る――クラウたちだ。


「クラウー! みなさまー!」


 私は大きく手を振り、声を上げた。


 それに気付いたクラウたちは、あわてて私に駆け寄ってくる。


 最初にクラウが、涙目で私に飛びついてきた。


 助走距離バッチリ、全力のタックルだ。


「ヒルダ! どこに行ってたのよ! 心配させないで!」


 私はクラウを受け止め――切れず、見事にしりもちをついていた。


 お尻が痛い! クラウ、勢い付け過ぎ!


 私は胸の中で泣きじゃくるクラウの頭を撫でていた。


 その周りを、ルイズたちが取り囲む。


 私を見つけて安心している彼女たちに告げる。


「ごめんなさい。

 まさか、遺跡の魔法に巻き込まれるなんて、思わなくて」


 リッドが私に告げる。


「ヒルダが突然消えて、みんな慌てふためいたんだぞ?

 ヴォルフガング様も大慌てでさ。

 『手分けして探そう!』って」


 エマがのんきな口調で告げる。


「でも無事に帰ってきてよかったよー。

 噂じゃ、『帰って来られない人も出た』って聞いたこと有るしー」


 ようやく泣き終わったクラウが、涙目で見上げてきた。


「本当に無事? どこもなんともない?」


 私はクラウに微笑んで応える。


「大丈夫、怪我なんてひとつもありませんわ。

 だから、安心して?」


 少し落ち着いたのか、クラウが立ち上がった。


 私もルイズの手を借りて立ち上がる。


 ルイズが私に告げる。


「でも、どこに行ってたの? 記憶はある?」


「うーん、なんて説明すればいいのか……」


 私は周囲の王国兵を横目で見る。


 ここで話せば、彼らにも話が聞こえてしまう。


 あんな荒唐無稽で不穏な話は、人前で口にしちゃダメだろう。


「後で詳しく話します」


 みんなはそれで納得してくれたらしい。



 しばらくは女子だけで、私が居なくなってからの出来事を聞いていた。


 ――遠くから、金属音が聞こえる?


 音の発生源は、遺跡の入り口。


 目を向けると、ライナー様と魔術騎士二名が走り寄ってくるところだった。


 軽鎧って、走るとあんなにうるさいのか。


 軽鎧は、全身鎧に比べれば軽い。


 後者は全重量が四十キロを超える。


 着て歩くだけで重労働だ。


 それに比べれば軽いのだけど、金属鎧には違いがない。


 激しく動けば、かなりうるさい。


 遠くからライナー様が叫ぶ。


「ヒルデガルト! 無事か!」


 私は反応に困ったので、黙って彼が近寄ってくるのを待った。



 私の目の前にたどりついたライナー様は、すっかり息を切らしていた。


 後ろの魔術騎士二人は、倒れ込んで休息を取っている。


 ……部下に無茶をさせ過ぎじゃない?


 私はライナー様に簡潔に告げる。


「無事ですわよ?」


「よかった!」


 抱き着いて来ようとするライナー様を、ルイズとリッドが素早くさえぎった。


 ぐっじょぶである。


 二人の女子が、冷たい視線でライナー様をにらんだ。


「婚約者の居る令嬢に、まさか『抱き着こう』などと考えておりませんわよね?」


 ルイズの冷淡な言葉に、ライナー様が怯んでいた。


 一歩下がり、頭を下げて告げる。


「すまない、嬉しさの余りつい、我を忘れた」



 しばらくすると、今度はフィルとハーディが姿を見せた。


 ハーディが私に真顔で告げる。


「ヒルデガルト嬢、無事か」


 ぶっきらぼうに言い放たれた。


「ええ、ありがとう」


 フィルはいつもの微笑みを寄越したあと、ハーディと一緒に私から離れた。


 二人は木陰に腰を下ろし、雑談を始めていた。


 私は彼らを遠くに見やりながら、ぽつりと告げる。


「まさか、捜索してくれるだなんて思いませんでしたわ。

 よくわからない人たちね」


 評判では、ハーディは『乱暴者で不誠実な女泣かせ』と聞いていた。


 でも今日まで私が見てきた彼は、不器用なだけの青年だ。


 クラウもぽつりと告げる。


「そうね、噂に比べると随分と大人しいわ。

 前に夜会でみせた姿とも違うわね。

 案外、ヒルダに本気なのかもしれない」


 もう、横恋慕は許してくれないかなぁ?!


 これ以上、参戦者が増えるのは嫌過ぎる。


 ライナー様だけで手いっぱいなのに、追加オーダーなんて欲しくない。


 私がげんなりしていると、クラウが私に告げる。


「フィル様も、あなたを諦めた訳ではなさそうよ。

 目で追いかけてるもの」


 私の顔が引きつっていた。


「もう本気でお腹いっぱいなので、許してほしいのですが。

 なぜ婚約者が居る相手に、そこまで入れ込めるのかしら」


 ルイズが優しく微笑みながら告げる。


「恋に落ちる時に、理屈なんて要らないのよ?

 婚姻してる相手に恋をすることだって、珍しい訳じゃないわ」


 私はさらに顔を引きつらせながら応える。


「わたくし、ジュリアスひとりで充分ですので」


 泥沼の恋愛模様なんて、願い下げだぁ!


 早く彼らが身を固めますように!


 神様、なんとかして!



 続いてフランツ殿下とベルト様、魔術騎士二名が戻ってきた。


 殿下が私に告げる。


「無事か、ヒルデガルト」


「ええ、問題ありませんわ。殿下」


 ベルト様はニコリと微笑み、クラウたちと一緒に私の周りに集まった。



 お父様は最深部の方を探していたらしい。


 一番最後に戻ってきた。


 ジュリアスとディーター、魔術騎士も一緒だったようだ。


 お父様は息を切らせて駆けつけてくる。


「ヒルダ! 無事だったんだね!」


 お父様に抱きしめられながら、私は優しく応える。


「ええ、ご心配をおかけしました。無事ですわ」


 ジュリアスは、いつも通りの落ち着いた雰囲気で告げる。


「無事でよかった」


「ありがとう、ジュリアス」


 平然とすましてるけど、額の汗を拭き忘れてるよ? ジュリアス。


 そういうところがジュリアスのチャームポイントだ!


 お父様が私に告げる。


「お前の姿が忽然(こつぜん)と消えて、心臓が止まるほど驚いたよ。

 あの石碑に、あんな仕掛けがあったなんて」


 この遺跡は長い期間、大勢の人間が調査に訪れているらしい。


 だけどあんな現象は、今回が初めてだそうだ。


 ……まぁ、そりゃそうだろうな。


 今回の出来事は神様のいたずら、イングヴェイの思惑だもん。


 ああそうだ、イングヴェイの話を、お父様に伝えないと。


 私はお父様を見つめて告げる。


「詳しくは馬車の中でお話しますわ」


 お父様は何かを感じ取ったのか、静かにうなずいた。


「そうか、わかった。

 だが今夜はもう日が落ちた。

 ここで野営をして、明日の朝、馬車に戻ろう」


 お父様の指示に従って、それぞれが野営の準備を開始した。


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