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新約・精霊眼の少女  作者: みつまめ つぼみ
第3章:金色の輝き

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50.婚約披露夜会(1)

 豪華絢爛に彩られた、大きなホール。


 グランツ領にある、ファルケンシュタイン公爵家の別邸、そこの施設だ。


 今夜は現公爵家当主、ルドルフ兄様が夜会を主催していた。


 主賓はもちろん私とジュリアス。


 これは、私たちの婚約と、新しい分家が生まれることを祝う宴。


 国内で一、二を争う家格を持つ、ファルケンシュタイン公爵家。


 そして宰相を務めるルドルフ兄様が主催すれば、招待客は多岐に渡る。


 政財界の名だたる面々が、私たちを祝いに駆けつけてくれた。


 お父様は彼らと旧交を温め、私たちから離れて談笑している。


 私の周りにはクラウとフランツ殿下、それ以外のみんなも駆けつけてくれた。



 ジュリアスはいつも通り、大人びた雰囲気で落ち着いて過ごしていた。


 こんな大舞台でも、平気みたいだ。


「ジュリアスは緊張なさいませんの?」


「俺がですか?

 緊張する理由がありませんからね」


 なんとも涼しい顔で言い切られた。


 他人に興味がなくてマイペースなジュリアスは、案外社交界に向いてるのかもしれない。



 養子とは言え、お父様の子供は私で、ジュリアスは入り婿。


 必然的に、招待客の多くは私を優先して挨拶に来た。


 挨拶されるたびに顔と名前を一致させる作業をこなしていく。


 事前に招待客名簿を見せてもらって調べていたけど、人数が多すぎる!


 暗記をしながら世間話も回さないといけないので、頭の中が大混乱だ。


 ジュリアスがそれとなく会話のフォローを入れてくれて、私はなんとか波を乗り切っていた。


 クラウは小さい頃から、こんなことをやってたのか。


 公爵家に生まれるのって、大変なんだなぁ。



「――ふぅ」


 ようやく挨拶の波が途切れ、私は一息ついていた。


 離れて様子を見ていたクラウたちが近寄ってきて、労ってくれる。


「おつかれさま。中々堂に入ってたわよ?」


「ありがとう、クラウ。

 あなたにそう言ってもらえると、自信が尽きますわね」


 リッドが笑いながら告げる。


「ほんと、覚悟を決めてからのヒルダはクラウそっくりだな。

 大人たちにも迫力負けしてないし」



 短い時間で言葉を交わし、相手の本質を見極める。


 まだ十全じゃないけど、相手が善意を取り繕っているか否かは、うっすらとわかってきた。


 やっぱりこういうのは、場数がものを言うよねぇ。


 これだけの大人数を相手にするのは、良い練習になる。


 これだけ大規模な夜会ともなると、善良な人ばかりじゃない。


 むしろ政財界の大物は、海千山千の猛者ばかり。


 私の目には社交界という戦場が、想像以上に過酷な世界に見えていた。


 この世界で化かし合いか。


 柄じゃないけど、できるようにならないとね。


 私の背後から、聞き慣れない声で呼びかけられる。


「ヒルデガルト、大丈夫かい?」


 振り返ると、そこに居るのは長身の青年。


 アッシュグレイの長髪に凛々しい顔立ち。


 『お父様の若い頃は、こんな風だったのかな?』と思わせる。


 彼はライナー・フォン・ファルケンシュタイン。


 ルドルフ兄様の長男、つまりディーターのお兄さんだ。


 将来はファルケンシュタイン公爵家を継ぐ人間でもある。


 私は微笑んで応える。


「ええ、なんの問題もありませんわ」


 ライナー様は今年で十九歳。


 レブナント王国軍の精鋭部隊、魔術騎士団で部隊長を務める、精鋭のひとりだ。


 だけど、この年齢でもまだ婚約者を作ったことがないらしい。


 ルドルフ兄様が『困った奴だよ、誰に似たんだか』とぼやいていた。


 文武両道眉目秀麗、令嬢からの人気は高いらしい。


 なのにどうして、相手を作らないのかなぁ?


 ディーターはもう、婚約者が居るのに。


 ライナー様は私とジュリアスの様子を確認すると、うなずいてその場を離れていった。


 私はみんなや、みんなの婚約者たちと談笑を続けた。


 途中からクラウに、今日会った人物の注意点をレクチャーされていた。


 経験豊富なクラウの言葉は、とてもためになる。


 そのクラウの視線が、不意に私の背後に伸びていた。


「あら、さっそく要注意人物がいらっしゃったわ」


 振り返ると、ルドルフ兄様がこちらに歩いてくるところだった。


 ……ルドルフ兄様が、要注意人物?


 私の耳元でクラウがささやく。


「悪い方ではないけれど、油断をしてはだめよ?」


 油断をするな? どういうこと?


 ルドルフ兄様が穏やかな笑みで告げる。


「やぁヒルデガルト、楽しんでるかい?」


 私も微笑んで応える。


「ええ、ルドルフ兄様。

 今夜は夜会を催してくださり、ありがとうございます」


「なに、可愛い妹殿のためだからね。

 大したことはないさ」


 むしろ、大袈裟にし過ぎなんだよなぁ~?!


 お祝いしてくれるのは嬉しいけど、伯爵家の婚約を祝う規模じゃないでしょ?!


 ルドルフ兄様が、そわそわしながら私に告げる。


「ところでヒルデガルト、前から気になって居たんだが、頼みを聞いてくれるかな」


「頼み、ですか? なんでしょう?」


「君の精霊眼を少し、『見せて』もらいたいんだ」


 見るだけ? それくらいなら、まぁ。


 ほんとは嫌だけど、我慢できないほどじゃないし。


「構いませんわよ?」


 ルドルフ兄様が私の頭を手で押さえ、左目を覗き込んでくる。


 ……丁寧に観察してくるなぁ。


 どうしても目と目があっちゃうから、ものすっごい気まずいんだけど。


 ルドルフ兄様が少し考えこんだ。


「ふむ……魔力同調をするが、構わないね?」


 えっ?! それは嫌だぞ?!


 いきなり魔力同調なんて、不躾を通り越してる!


「いえその、困ります!」


 と、私が言うより早くルドルフ兄様は私に魔力同調していた。


 特等級の私を相手に、実にあっさりやってのけた。


 その手際の良さは、さすがお父様の息子だけある。


 そのまま私の魔力を使って、精霊眼を入念に調べ始めた。


「なるほど……」


 『なるほど』じゃない!


 この手と魔力を振り払いたいけど、ルドルフ兄様は公爵家当主。


 本家当主であるルドルフ兄様に、分家の私は逆らえない。


 私にできるのは、お願いすることだけだ!


「あの! ルドルフ兄様! 困ります!」


 私の声は、真剣なルドルフ兄様の耳に届いていないようだ。


 自分の世界に没頭して、小さく独り言をつぶやいていた。


 どうしたらいいのー?!


 ――突然、バチン! という音と共に魔力同調が解除された。


 ルドルフ兄様の目が、私の隣に居るジュリアスを見る。


「……今のは、君か」


 ジュリアスは不機嫌を隠さずに応える。


「ヒルダが嫌がることを、俺が目の前で見逃すと思いますか」


 ルドルフ兄様が冷たい微笑みを浮かべた。


「分家の、しかも入り婿が本家当主に逆らう。

 その意味くらいは理解しているのかな?」


 ジュリアスはフッと笑って応える。


「本家だろうと分家だろうと関係がない。

 ヒルダを泣かせる者を、俺は許すつもりがありません」


 そういってジュリアスは、私にハンカチを差し出してくれた。


 私は涙目になっていたことに気が付き、ありがたく涙を拭きとった。


 こういう時、ジュリアスの落ち着いた雰囲気とマイペースは頼りになるなぁ。


 しばらくルドルフ兄様とジュリアスが睨み合っていた。


 どちらも互いに譲る気がない。


 そんなルドルフ兄様の顔を、バサッという音と共に扇子が覆い隠した。


「――ルドルフ。大切な妹とその婿を相手に、何をしてるのかしら」


 この声、クリスティーネ様!


 ルドルフ兄様の奥さんで、現公爵夫人。


 そしてライナー様とディーターのお母さんでもある。


 クリスティーネ様は私にニコリと微笑んで告げる。


「ごめんなさいね。

 この人、魔術のことになると人の心を忘れちゃうの」


 爆弾発言過ぎないかな?!


 そんな人が宰相で、この国は大丈夫なの?!


 クリスティーネ様が、ルドルフ兄様のネクタイを掴んで私に告げる。


「ヒルデガルト、私のことは姉と呼んでいいわ。

 この人があなたに酷いことをしそうになったら、いつでも言いにいらっしゃい」


 そういってクリスティーネ様は、ルドルフ兄様を引きずって向こうに行ってしまった。


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