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新約・精霊眼の少女  作者: みつまめ つぼみ
第2章:綺羅星

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36.特訓!(1)

 翌朝、教室に入った私はクラウたちにお父様の計画を伝えた。


 クラウが何かを考えるようにうつむいた。


「……全学年を通してのスペシャルクラス。

 あのヴォルフガング様の考えることですものね。

 ただの選抜クラスだとは思えないわ」


 私はうなずいて応える。


「悪いようにはなさらないと思います。

 けれど何をなさりたいのか、さっぱり見えてきません」


 リッドが腕組みをして唸っていた。


「あの人が『ちょっと勉強するだけ』ってのも怖いね。

 あたしらがヒルダ達に追いつけるわけがない。

 だけどぬるい選抜条件じゃ、スペシャルクラスの意味がなくなるよ」


 どれだけの技術を要求されるのか、みんな戦々恐々らしい。


 クラウが握りこぶしを作って告げる。


「私は必ずヒルダと同じクラスになって見せるわ!」


 私はクラウに告げる。


「お父様は基礎を最も大切する方よ。

 基礎がおろそかな人が選ばれることはないと思います」


 みんなが不安になっていた。


 どうしたらいいのか、ジュリアスに視線を投げつける。


 ジュリアスは小さく息をついて応える。


「そんなに不安なら、今のうちに対策を始めましょう」


 そう言って懐から砂時計を取り出し、机の上に置いた。


 ジュリアスがニヤリと微笑んだ。


「魔力制御は基礎の基礎、ですよ」





****


 昼休み、昼食を手早く済ませると、学院から教材の砂時計を借りてきた。


 それをみんなに手渡しながら、砂時計鍛錬のルールを教えていった。


 みんなはルールをひとつ聞くたびに顔色が悪くなっていった。


 フランツ殿下が心底、嫌そうな顔で告げる。


「お前ら、よくそんなことをやってられるな」


 クラウも呆然としてルールを聞いていた。


「砂を、一粒ずつ掴むの?」


「ええ、そうよ?」


 みんな、なんでそんなに戸惑ってるんだろう?


 私が困惑していると、ジュリアスがため息交じりに告げる。


「普通、そんな細かな制御はしないんですよ」


 魔導術式は、必要な魔力出力とベクトルが揃えば発動してしまうらしい。


 自由奔放な魔力という力に、回路を定義してあげるのが魔導術式なのだとか。


 術式の力を借りれば、自力で細かい制御をしなくても魔術が成立する。


 なので、そこまで細やかな魔力制御なんて、普通は覚えないのだそうだ。


 しかも魔力は強ければ強いほど、制御が難しくなっていく。


 強い魔力で砂一粒を持ち上げるほどの繊細な制御は、とても集中力を要求されるらしい。


 私は小首をかしげて尋ねる。


「でもジュリアスは最初から砂を一粒、もちあげられましたわよ?」


 エマが「ジュリアス様と一緒にしないで!」と抗議の声を上げた。


 どうやら本当に難しい鍛錬らしい。


 ジュリアスがクラウに告げる。


「クラウディア様、試しに砂を一粒、持ち上げてください」


 クラウは「い、いいわよ! やってやろうじゃない!」と意気込んで砂時計に向かった。


 額に玉のような汗を浮かべながら、クラウが砂時計に向かう。


 ようやくふわりと持ち上がった砂は、百粒以上の塊だった。


「嘘……なんでもそつなくこなせるクラウでも、こうなるの?」


 ジュリアスがため息をついた。


「少しはこの鍛錬の異常性を理解しましたか?

 俺たちと同じことは、すぐにできるようにはなりません。

 ですので今は『砂を一粒持ち上げる』、それを目標にしましょう」


 この目標なら、みんなでも一か月ほどで達成できるらしい。


 それでも一か月かかるのか……。


 しばらくみんなは沈黙していた。


 気まずい沈黙を破ったのは、クラウだった。


「私はやるわ!

 ヒルダの隣は私のものよ!

 誰にも譲らないんだから!」


 ルイズやエマもうなずいた。


「しょうがないわね。付き合ってあげる」


「これで魔術が上達するなら、損はないものね」


 ジュリアスが殿下を見て告げる。


「殿下はどうされますか。

 これは王族に要求される水準の技術ではありません。

 無理をして付き合う必要はありませんよ」


 フランツ殿下が不敵に笑った。


「この俺が、クラウから離れると思ったのか?」


 さっきまであれほど嫌がっていたのが、見事な変わりようだ。


 なんとしてでもクラウと一緒のクラスに居たい。


 そんな強い想いを感じた。


 私にもこんな風に想ってくれる人がいるだろうか。


 ジュリアスをちらりと横目で見る。


 彼は私の視線に気が付き、優しく微笑んだ。


「あなたが望むなら、どこまでもついて行きますよ」


 私は思わず赤くなって目を伏せてしまった。


 そっか、そこまで想ってくれてるのか。


 ……でもじゃあ、私は?


 ジュリアスにどこまでもついて行くって、言い切れる?


 私が思い悩んでいると、ジュリアスが皆に告げる。


「サポートは俺とヒルダ嬢がやります。

 放課後、居残りをして特訓しましょう」





****


 放課後、八人で集まり特訓を開始した。


 女子は私が、男子はジュリアスがサポートすることになった。


 女子たちは、必死に砂時計に集中している。


「あー! まただめだー!」


「うぐぐ……」


「本当にできるようになるのかしら」


「やってやる! やってやるわ!」


 みんな苦戦してるなぁ。


「クラウ、力を入れ過ぎよ?

 もっと繊細に魔力を扱わないと」


 クラウが涙目で私に応える。


「そう言われても、力が入っちゃうのよー!」


 うーん、最初の内は微細な魔力制御の感覚がわからないのかな。


 つまり、成功体験が不足してるんだ。


 頭をよぎった方法を検討してみる。


 ……たぶん、うまくいくはず?


 私はクラウのそばに立ち、彼女に告げる。


「良く見ていてください。

 こうするのですわ」


 自分の魔力をクラウの魔力に浸透させていく。


 クラウが「えっ?!」と驚きの声を上げた。


 そのまま私は、クラウの魔力を操って『砂を一粒』持ち上げてみせた。


「ほらね? このぐらいの力加減ですわ」


 クラウは呆然とこちらを見つめていた。


 ルイズたちは「あら、クラウもできるじゃない!」と声を上げていた。


 背後からジュリアスの強張った声が聞こえる。


「ヒルダ嬢、その術式をどこで覚えましたか」


 術式?


 私は驚いて振り向き、ジュリアスに応える。


「これは思い付きで魔力制御をしただけですわよ?」


 魔力は人それぞれ、固有の波長がある。


 他人の魔力の波長に自分の波長を揃えてあげれば、『浸透する』気がしたのだ。


 そうすれば、火や水を操るのと同じ感覚で他人の魔力を操れるはず。


 そう考えて実践しただけだ。


 ジュリアスは眉間を指で押さえて悩んでいた。


「あなたが非常識なのは、理解していたつもりでしたが。

 まさか魔力同調を思い付きでやらかすとは」


 私はきょとんとジュリアスを見つめた。


「非常識なんですか?」


「……言いたいことは山ほどありますが、今は時間がありません。

 術理は俺も理解しました。

 殿下、ノルベルト。俺に三日ほど時間をください」


 彼は『三日あれば、私と同じことをできるようにしてくる』と宣言した。


 それまでは口頭でサポートするらしい。


 私は女子たち全員に魔力を浸透させ、成功体験を覚えさせていった。


「え、こんなに細かいの?!」


「なるほどねぇ」


「こんな感じなのね」


「ヒルダと! 同調! してる!」


 約一名、後で叱っておかないと駄目かも。


 背後からジュリアスの疲れたような声が聞こえる。


「誰が四人同時に魔力同調しろと言いましたか」


 そんなことを言われても、『蜃気楼』を四体作るより簡単なんだもの。


 私たち八人は、時間が許す限り砂時計に向かい続けた。


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