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新約・精霊眼の少女  作者: みつまめ つぼみ
第1章:精霊眼の少女

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25/102

25.学生たちのパーティタイム!(4)

 ジュリアスが私に戸惑うように告げる。


「どういうことですか、ヒルダ嬢」


 私は深いため息をついた後、みんなに告げる。


「クラウは囮ですわ」


 わざとチェックを甘くして、ルーニア王国の刺客を会場に招き入れてる。


 おそらく、招待状が刺客の手に渡るよう仕向けてるな。


 彼女は私たちに『華やかに取り押さえてみせろ』と言いたいんだ。


 だから噂も彼女が意図的にばらまいて、私たちの耳に入るよう仕向けた。


 みんなの表情が変わっていく。


 私が言いたいことを、即座に理解したんだろう。


 私は言葉を続けていく。


「今日、この会場に高い確率で刺客が紛れ込んでいます」


 クラウが望むのは『華やかな解決』。


 裏で解決してもクラウに失望される。


 衆人環視の中、刺客を私たちが取り押さえる。


 相手はプロの暗殺者だろう。


 学生の私たちには荷が重たい。


 それでも『やってみせろ』と言われてるんだ。


「――だいぶハードなミッションですわね?」


 全員のため息がシンクロした。



 だいたい、そんな計画があるなら教えなさいよ!


 なんで相談してくれないの?!


 どうして『計画に気付くかどうか』まで試されなきゃいけないの?!


 私たち、友達でしょう?!


 私の怒りは、もう限界寸前だった。





****


 私はみんなに指示を飛ばしていく。


 お父様たちは、おそらく保険。


 最悪の事態――クラウがさらわれるのは防げると思う。


 だけど万が一は有り得る。


「ですからルイズ、エマ、リッドはクラウを一人にさせないでください!

 人目がない場所でさらわれる可能性を潰して!」


 ――ルイズたちがうなずいた。


 さらえないと判断すれば、刺客はプランBに移行する。


 クラウの命が狙われることになる。


 狙うタイミングは……おそらく、クラウがステージ上に一人になる時。


「誰か今夜の予定をご存じありませんか!」


 みんなが首を横に振った。


 今夜はフランツ殿下とクラウがセッティングを行った夜会。


 あの二人以外、詳細を知らされてないのか。


 私はこめかみに極太の血管が浮き出たような錯覚を覚えた。


 怒りでどうにかなっちゃいそうだ!


「――あんの性悪女!

 『チャンスはくれてやるから逃すな』って言いたい訳ね!

 よくわかったわ!」


 軽く深呼吸をして気分を落ち着け、言葉を続ける。


「殿下が同伴してる間は、殿下の護衛が務めを果たすはずです。

 おそらく大丈夫だとは思います。

 ですが念のために、ベルト様は二人の周囲で警戒してください!


 ――ベルト様がうなずいた。


 ジュリアスは私と分担して警戒魔術を使う。


 索敵と、いざという時の飛び道具担当だ。


「刺客を仕留める役を、私たちが担います!」


 エマが驚いて声を上げる。


「ジュリアス様はわかるけど、ヒルダも使えるの?!

 索敵魔術は高等魔術なのよ?!

 グランツ在校生は普通使えないわ!」


 私はエマにうなずいた。


 我流だけど、私も索敵魔術を覚えてる。


 今回の条件なら、充分に使えるはずだ。


 私とジュリアス二人でなら、会場全体をカバーできる。


 会場は縦長だから、前後に分かれるべきだ。


 私は前方、この位置で索敵魔術を発動する。


「ジュリアスは後方をお願いします。

 自分の判断で陣取ってください」


 ――私とジュリアスがうなずきあった。


 ベルト様が私に告げる。


「連絡はどうするんですか。

 この人混みで一度別れたら、合流するのは難しい」


 私はうつむいて応える。


「連絡魔術は、とても高度な魔術です」


 ジュリアスも私も、まだそれを修得していない。


 だから刺客が動きを見せるまでは打ち合わせ通りに。


 刺客が動いたら、各自の判断で動くしかない。


「――さぁ、みなさま! 動いてください!」


 私が両手を打ち鳴らすと、各人が持ち場へ散っていった。


 ルイズ、エマ、リッドはクラウからやや離れた位置へ。


 ベルト様は、殿下とクラウを見渡せる位置へ。


 ジュリアスは後方へ向かった。


 私はここで、索敵魔術だ。


 ――疲れるんだよね、この魔術!


 私の索敵魔術は、ぶっちゃけただの魔力制御。


 魔力の網を広く薄く延ばして、魔力に触れた人の情報を得る。


 その人が持つ魔力の強さや身のこなし。


 どういう動きをしているのかを、個人を識別しながら行う。


 要するに、砂時計鍛錬の応用だ。


 これに精霊眼の『魔力を見る力』を合わせれば、侮れない効果を見込める。


 この場に居るのは貴族、相応に魔力が高い人材ばかり。


 その一人一人を把握し、不審な行動をしてる人間を見つけ出す。


 特に刺客ともなれば、≪身体強化≫術式を使う公算が高い。


 その瞬間の魔力の動きを察知できれば、確実に補足できる。


 ――後で絶対、クラウを叱りつけてやる!



 こうして、私たちによる『学生たちの大捕り物』の幕が上がった。





****


 ジュリアスが索敵する会場後方は、敵意が渦巻いていた。


 どれもこれも、ヒルデガルトに対する敵意だ。


 あれだけ見せつけたのだから当然だろう。


 レブナント王国の重鎮が軒並み彼女のバックに居る。


 彼女に手出しは出来なくなったが半面、表に出せない敵意は膨れ上がった。


 ヒルデガルトを守るには最善の手だったが、クラウディアを守るのにこの状況は厳しかった。


 ジュリアスの使う索敵術式は、範囲内の敵意を探るオーソドックスなタイプだ。


 伝統的な術式で、ノウハウが多く存在する。


 その術式で範囲内の敵意を丁寧に仕分け、クラウディアに対する敵意を探り出す。


 ――クソッ! これでもヒルダ嬢にかなり近づいたはずなのに!


 数百人規模の敵意を仕分けるのは、砂時計鍛錬と同等以上の難易度だ。


 毒は吐くが、ジュリアスは根気強く敵意を仕分け、生徒父兄以外を探っていった。


 砂時計鍛錬で鍛えられた集中力は、きちんと生かされていた。





****


 エミリが憂鬱そうに告げる。


「クラウに近づきすぎても離れすぎても駄目。

 地味に面倒な役回りよねー」


 クラウディアのプランは、敵の襲撃を誘発させなければならない。


 こちらが警戒してると悟られる訳にはいかないのだ。


 ルイーゼもため息交じりで告げる。


「たぶん、ステージ上で事が起こるわ。

 一番目立つし、あの子は派手好きだもの。

 それ以外の可能性を潰すのが、私たちの役目ね」


 クラウディアが襲われるとわかっていて見守らなければならない。


 心配でないわけがなかった。


 アストリッドが疑問を口にする。


「そんな派手な演出で、あの子は何をしたいんだい?」


 ルイーゼがそれに応える。


「私たちの実力、正確にはヒルダの実力を知らしめたいのよ。

 ついでにルーニア王国に証拠をつき付けて、外交カードにするんじゃない?」


 一石で二鳥でも三鳥でも、狙えるだけ狙っていく。


 クラウディアはそういう人間だった。


 三人の少女は顔を見合わせ、改めてため息をついた。


 ――彼女たちの友人は、実に性根が悪い。





****


 ノルベルトが会場を見渡してみると、普段より警備兵の数が少なかった。


 ヒルデガルトが言った通り、フランツ王子の周辺だけは従来の護衛が付いている。


 フランツ王子だけは死守するよう、命令が渡っているようだ。


 おそらく、国王も計画を知らされ、承認を出しているはずだ。


 会場に来たのは、ヒルデガルトたちが見事に計画を完遂できるか、それを見に来たのだろう。


 無様をさらすわけにはいかなかった。


 ノルベルトはいつでも飛び出して行けるよう、≪身体強化≫の準備をしていた。


 仲間内で一番の機動性と瞬発力を誇る。


 毎週ヒルデガルトと技比べをしているうちに、彼の実力も飛躍的に向上している。


 ――だがそれでも、ヒルダ嬢に勝てないのは歯がゆいな。


 真摯に研鑽する姿において、ノルベルトは未だ彼女に及んでいない。


 クラウディアとヒルデガルト、同時に危険が迫った時を考える。


 その時ノルベルトは、どちらを守るために動くだろうか。


 守るべきはクラウディアだ。


 だが、守りたいのは――。


 考えてみたが、結論は見えなかった。


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