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新約・精霊眼の少女  作者: みつまめ つぼみ
第1章:精霊眼の少女

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23/102

23.学生たちのパーティタイム!(2)

 結果から言うと、お父様の陥落は早かった。


「――というわけで、当日のエスコートをお願いしたいのです」


「ふむ、ああいいよ。

 もちろん構わないとも!

 お前のためならばそれくらい、お安いご用さ」


 チョロい。


 いや、『チョロい』なんて失礼な言葉は使いたくないな。


 お父様がそれだけ、私を大切に思ってくれてるってことだし。


 ここは素直に、お父様に感謝しよう。


 ――だけど、確認しておきたいこともある。


 私は微笑んだまま、お父様に告げる。


「ですが夜会用のドレスがありません。

 お父様はどうしたらいいか、お考えがありますか?」


 お父様がにっこりと微笑んで応える。


「もちろん用意済みだとも!

 クラウディア嬢と友人になった時から用意してあるよ!

 いつこうなってもいいようにね!」


 なんだか、『待ってました!』と言わんばかりの笑顔だ。


 クラウと友人になったのって、二か月前なんだけど?


 気が早すぎない?


「お父様? わたくし、これまで一度も採寸をしてきてませんわ。

 どうやってドレスをお作りになられたのですか?」


 お父様はにんまりと微笑むだけで、応えてはくれなかった。


 ――やっぱり『蜃気楼』を使ったの?!



 私はショックの余り、その後どうやって部屋に戻ったのか覚えてない。


 気が付いたら自分の部屋でウルリケに抱き着き、泣いて愚痴っていた。


 ウルリケが私に告げる。


「私から旦那様に『きつく』申し上げておきます」


 ウルリケは三白眼になって力強く語っていた。


 その目には、殺気すら感じるほどだった。





****


 夜会当日、ウルリケ達が私を着つけていく。


 精霊眼とおそろいの真っ赤なドレスだ。


 お父様と一緒に馬車で王宮に向かい、お父様の手を借りて降りる。


 降り立った瞬間から、周囲の招待客たちが奇異の目を向けてきた。


 ざわつく声を拾い集めると、お父様が来ていることに驚いているようだった。


 ……王宮嫌いで有名って、ほんとだったんだ。


 お父様にエスコートされ、王宮入り口から会場のホールまで移動する。


 その間、周囲から私たちを値踏みするかのような視線が寄越された。


 こんな大勢の人たちに見られるのは、初めての経験だ。


 緊張で顔が強張るのがわかる。


 お父様が優しく声をかけてくれる。


「大丈夫、今日もお前は美しいよ」


 私は精一杯の微笑みを返しながら応える。


「ありがとうございます、お父様」


 周囲から、驚くような声が混じった。


 孤児で養子の私が、お父様と仲睦まじい。


 親子関係が強固だと見せつけたんだから当然だ。


 これでアピールポイントを一つ、クリアだ。



 豪奢(ごうしゃ)なホールに足を踏み入れ、みんなと合流する。


 私が招待された席は、会場の奥で、ステージそば。


 本来なら一番大切な招待客を招く席らしい。


 私がここに招待されることも、アピールの一環なのだろう。


 今夜は立食パーティーなので、テーブル自体は大きくない。


 その周囲に、殿下とクラウ以外がその場にそろっているようだった。


 ルイズ、エマ、リッド。


 ヴィンケルマン公爵たち、四方守護軍の最高司令官。


 そして――。


「初めまして、妹殿」


 そう、宰相にしてお父様の息子、ルドルフ様だ。


 深い灰色の髪の毛と高い背丈はお父様譲りかな。


 優しい微笑みも、お父様によく似ている。


 体も鍛えているようで、細い割にがっしりとした体つきだ。


 まさに『美丈夫』を地で行く人だろう。


 四十歳だったと記憶してるけど、まだまだ全然若々しい。


 私は淑女の礼で応える。


「初めまして、ルドルフ様。

 ヒルデガルトですわ」


 ルドルフ様がニコリと微笑んで応える。


「そんな他人行儀にしなくていいよ、妹殿。

 『兄様』とでも、気軽に呼んで欲しい」


 スッと腰を落とし、ひざまずいたルドルフ兄様が私の右手を取った。


 そのまま手の甲に唇を落とす。


 これは『相手を信頼している』というサインらしい。


 一気に周囲がざわついて行く。


 そりゃそうだよね。義理の兄妹とはいえ、宰相だもん。


 そんな人が十四歳の子供に信頼を贈る。


 インパクトは計り知れない。


 ヴィンケルマン公爵たちも、続いて私の手の甲に唇を落としていく。


 周囲が騒然として、噂話が飛び交っていくのが伝わる。


 これで、アピールポイント二つ目をクリアだ。



 ルドルフ兄様の視線が私の背後に伸びた。


「おやおや、早速のお出ましですか」


 誰か来たの?


 くるりと振り向くとそこには――。


 きらびやかな衣装と瀟洒(しょうしゃ)なマントを見にまとい、王冠を頭に乗せた男性。


 言われなくてもわかる。緊張で身体が強張る。


 男性――国王陛下が私に告げる。


「君がヴォルフガングの新しい娘だね。

 彼の娘なら、私の娘も同然だ。

 期待の新星と聞いているよ」


 私は上擦る声を自覚しながら応える。


「と、とんでもありません! 国王陛下!」


 そして慌てて淑女の礼を取った。


 ガチガチの肩に、陛下が優しく手を置いた。


「そう緊張しなくていいよ。

 君の実力が確かなのは、ヴィンケルマン公爵たちが見ている。

 君がグランツでどれだけ実力を伸ばすか、楽しみだよ」


 陛下はポンポンと、私の肩を優しく叩いた。


「今夜は学生たちが主役だ。

 我々大人は、遠くで見守らせてもらうよ」


 陛下とルドルフ兄様は微笑みながら、その場を離れた。


 お父様やヴィンケルマン公爵たちも、大人席に移動していく。


 私は呆然としたまま陛下やお父様たちを見送った。





****


 私は深く深呼吸をして告げる。


「――ふぅ。緊張しましたぁ」


 ぼやく私に、ルイズが微笑んだ。


「やっぱり緊張したの?

 まぁ、いきなり陛下だもの。当然よね」


 予告なしのサプライズにしては大袈裟だよ?!


 私はてっきり、今夜は参加しないものと思ってたし。


 フランツ殿下が参加するだけで、充分じゃないの?


 エマが私に飲み物の入ったグラスを手渡してくれた。


「はい、ノンアルコールのワインだよ。

 緊張したなら、それでリラックスしたら?」


 私はありがたくグラスに口を付け、喉を潤した。


 リッドがワインを片手に私に告げる。


「クラウとフランツ殿下は、あとから入場する予定らしいよ」


 ああ、それでこの場に居ないのか。


 エマがニタリと微笑んだ。


「これで国家の重鎮が、ヒルダの背後に居るってアピールできたね」


 ルイズが私の肩を抱いて笑った。


「そもそも、王宮嫌いのヴォルフガング様がエスコートしたのよ?

 それだけで王国がひっくり返る大珍事よ」


 お父様、そこまで王宮が嫌いなの?!


 陛下が姿を見せる以上の珍事って、どういうことなの……。


 あきれる私の背後から、ジュリアスの声が聞こえる。


「よくヴォルフガング先生を引っ張り出せましたね」


 振り向くと、フォーマルな深緑のスーツに身を包んだジュリアスが居た。


「ジュリアス! 来てくれたの?!」


 彼が柔らかく微笑んで応える。


「可愛い妹弟子を助けるためです。

 来ない理由がありませんね」


 そう言って、すまし顔でワインに口を付けていた。


 お父様もジュリアスも、社交場が嫌いだと聞いていた。


 ジュリアスまで、それを押して来てくれるなんて……。


「ありがとう、ジュリアス」


 私は少し涙目になりながら告げた。


 ジュリアスの目が、私のドレスに落ちた。


「……よく似合ってますね。

 あなたには赤が良く似合う」


「あ、ありがとうございます」


 ジュリアスから褒められるなんて、初めてじゃない?


 ふと気配を感じて後ろを見ると、ルイズたちがニヤニヤとこちらを見ていた。


 これは……後でからかわれるなぁ。


 ふぅ、と小さく息をついた。


 ジュリアスが来てくれたなら、もしかして――。


 会場中を見回して、その人を探す。


 生徒の中で、ひときわ背が高いマリンブルーの髪の青年。


 私は思わず手を挙げ、声を張り上げた。


「ベルト様! ここです!」


 こちらを見た浅葱色(あさぎいろ)の瞳が、私を認めて微笑んだ。


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