表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/32

騎士と踊る

「やっぱり、君はカシェルを選ぶんだね」


優しい青い目で、寂しげにダリルは微笑んだ。


「申し訳ありません、ダリル様」

「いいんだ。でも友達でいてくれないか」

「はい」


ジネヴラはカシェルと重なる手に、胸が高鳴る。

夢のような心地だ。


「手をとって貰えるとは思っていなかった」

「どうしてです?」

「何故だろう。僕は、何故か僕自身がコントロールできない時がある」

「どういう意味ですか」

「僕にも分からないんだ」

「…ドレス、有り難うございます。ピッタリで大祭司様が驚いてました」


ジネヴラのドレスは、カシェルが贈ってくれたのだ。

だから、カシェルがダンスに誘ってくれたらその手を取るつもりだった。

カシェルは気付かれないように贈ったのだが、アンガス様には分かっていたらしいので、とても心配していた。


「アンガス師は人が悪い」


音楽に合わせ、ステップを踏む。

それはスローで揺蕩うような、溶け込むような優しい波で。

心地よい一曲はあっという間に終わる。

何曲かカシェルの胸に任せ、夢のような時間が過ぎた。


スローテンポではあったがなれないヒールもあり、ジネヴラは疲れてしまった。

足を休める場所へ案内したカシェルは、神妙な顔でポツリと話し始めた。


「…ずっと謝らなければと思っていた。あの時、君が宝玉を盗んでいないと僕は知っていた」


ふるりと、青灰色の瞳が揺れた。


「知っていて、何も出来なかった」

「あの頃、私たちは子供でした」


カシェルは仕官したばかりで、ジネヴラも神殿に拾われたばかりだった。


「すまなかった」

「いいんです。結局私は無罪放免されましたから」

「だが」


カシェルは苦しそうにしているが、ジネヴラはカシェルが何故そんな辛そうなのかが分からない。


「もうすんだ事です」

「謝って済まされることではないな」

「謝ってすまないのであれば、何故謝るのです?私が言いたいのはそうではありません」


自嘲気味に歪められたカシェルの口元に、ジネヴラは誤解があると思った。


「人は人を赦すものです。赦せないこともあるでしょう。謝罪に心が籠っているかどうかは別として、受け取るのが常識なのでしょう」

「君は心無い謝罪でも受け取るということか」

「カシェル様は謝罪ではなく、私に関わることを選んでくださった。だから謝罪はもうすんだ事だと申し上げました」


伝える事が出来ただろうか。

ジネヴラが不安にかられてカシェルを窺う。


「本当に、お前は」

「どうかされましたか、カシェル様」

「ジネヴラ。僕は君にずっと救われてきた」


至近距離で見る青灰色はとても静かで。


「あの時から君を守ろうと思っていたのに、何故か君無しに生きられないと気づかずにいた愚か者だ。こんな状態はダメだと思っていた。自分を制御できない上に、僕は自分の気持ちを勘違いだとねじ曲げてきた」


でも、何処か強い意思があって、真っ直ぐにジネヴラを捉える。


「赦してくれるなら、そばにいさせてほしい」


ジネヴラは心が一杯になってどうしていいか分からない。

だが、カシェルの言葉に返さねばならないと、必死で唇を震わせた。


「いいえ。カシェル様はずっと私を救ってくださいました。あの頃から、私はカシェル様の優しさに甘えていました。私から貴方へ伝えれば良かったのです」


ジネヴラは一瞬息をのみ、逡巡して、でも言葉にする。


「貴方が大切です、カシェル」


それは、神の約束を違える言葉かもしれない。

自覚はしたが、止められない。

だが。


「先に言わないでくれ。僕が情けないだろう」

「いいえ。でもその先は言わないでください」

「どうしてだ、ジネヴラ」


これ以上は踏み込んではならないと境界をわきまえた。

それにカシェルが納得するはずもない。


「神に約束したのです。あなたを救う代わりに献身を」

「なんだと」

「だから。その先はどうか仰らないで。私はそれを糧に生きていけます」


ちゃんと話せば、カシェルが諦めるだろうと、ジネヴラは思った。

今まで話せずにいた事を。

あり得ない話だと思って、でもカシェルには腑に落ちる部分もあることをジネヴラは自覚していた。


「まさか、あの毒のありかを知っていたのは。ダリル王子の事も」


案の定、カシェルは答にたどり着く。

それが未知の情報で、証明しようもない事だと。

某かの超自然が関わるそれを、人の手で覆しようもないという現実を。


「君の生涯と引き換えに、君が今それを成したということはもう」

「ええ。引き返せないのです。ですから、どうか残酷な夢を見せないで」


落涙するジネヴラに、カシェルは愕然とし。


「成る程。貴方がずるをしていたからこんなことになったのね」


恐ろしいほど冷たい声が、背後から響いた。




9へ進む→



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ