アリスと話す
「大丈夫でしたか」
「なんのこと?」
「カシェル様は寡黙な方ですから」
「そんなどうでもいい話は後ね。大祭司様をお待たせしているのよ。何度も言わせないで」
ジネヴラはアリスに腕をつかまれて回廊を引き摺られた。
彼女を執務室へ放り込んだアリスは、白壁に凭れて頭を押さえた。
「気に入らないわ。あの無愛想なカシェル。大祭司様の寵愛を受ける身の程知らずなジネヴラ」
囁くような声。
それが壁に静かな反響を与え、吸い込まれて消える。
「寡黙ですって?自分の前では饒舌になるとでも言いたいの?あんな顔だけ良い男に、色目なんて使って。そうよ、大祭司様にも」
小さく、小さく誰にも聞こえない。
低く掠れて、熱さも冷たさもない、温度の無い声。
「ああ。あんな子いなくなれば良いのに」
呪い。
これは呪い。
「ジネヴラとカシェルに断罪を。人を惑わした罪を」
身のほど知らずのでしゃばり。
私の方が知識を生かせるのに、どうして大祭司様はあの専門性を生かしきれない知恵足らずをそばに置くのか。
ああ憎らしい。
私の方が評価されるべきなのに。
私の経歴の方があの子に劣らないのに。
アリスは気が狂ったようにステップを踏んだ。
その足取りは軽く、食堂で料理人の目を盗んで一振りのあるものを持ち出した。
何故か食材を測る天秤の上にあった鈍く光るそれは、手のひらほどの大きさで、彼女の歩調を阻害しない。
そのリズムの軽快さは、人が避けていくほどに順調で小気味良い。
そして彼女は執務室にいる憎き相手へとそれを振り下ろし、部屋を赤く染めていった。
BadEND




