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クリムゾン・ラプソディー

作者: 皐月紫音

僕の名はシエル・クライムハート。灰銀色の幻想第7小隊に所属する執行者だ。今はクロヴィス王国に出現した吸血鬼の討伐任務に来ているんだけど…。


「はぁっ〜…」

「……」

「はぁっ〜…。はぁっ〜…。」



「ルド先輩さっきからうるさいです!!」


「シエルちんよぉ、これがため息もつかずにやってられるかよ…。なんで俺達のチームは野郎しか居ねぇんだよ…はぁっ〜…。」


「そんなこと言われても…。あと、その呼び方やめてください。」


後ろに控える隊員達も、なんと言っていいかわからないような顔をしてるものや、また始まったかと呆れてる者達ばかりだ。


「ジェイドのやつは、今頃隊長と楽しくやってんだろうなぁ〜。向こうにはシャーリーちゃんも居るし良いよなぁ。」

「聖職者なら、こっちにも女性が沢山居るじゃないですか。」

「後方支援組のあの娘たちじゃ話す機会が中々無いんだって、それに‥。」

「それにどうしたんです?」



「あの娘たち、お前のことばっかり見たり話したりしてるじゃないかっ!はあぁっー!ほんとになんで俺の相棒が男でしかもイケメンなんだよおぉぉっ!!」



先輩は頭を抱えてこの世の終わりのような表情で派手に天を仰いだ。個人的にはこの女性に間違われるような自分の顔はあまり好きではないんだけどね。


「いえ、客観的に見て醜いとは思いませんが決してイケメンというわけでは‥女顔ですし‥。」

「あぁ、持ってるやつは違いますわ。最近はそういう中性的なくらいが好まれるんだよ‥もういっそお前さん女だったら良かったのにな。そしたら俺も放っておかないんだけどなぁ‥。」

「いえ、それは本当にやめてください。」


この先輩が相手だと本当に身の危険を感じるので冗談でもやめてほしい。そうなことを思ってると隊員たちが何か顔を付き合わせて話し出してる。


「なぁなぁ、実際シエルさんが女だったらどうよ?」

「‥良いかもな。アシュレイ隊長は美人だけど性格がキツすぎるしシャーリーさんとは違う魅力があるよな。」

「あぁ、シャーリーさんは親しみやすい幼馴染タイプだとしたらシエルさんはちょっと手の届かないお姫様とかお嬢様タイプ?」

「わかるよ、なんか優しさの中にも高貴さがある感じだよな。」


「「「ありだな!!」」」


「やめてくれるかい!??」


今度は僕が天を仰ぐことになった。もう、ここの隊員たち絶対に先輩たちの悪影響を受けてるよ‥。


「おっと、どうやら目的地に着いたみたいだぜ。」


ルド先輩は僕たちに声をかけて銀狼を降下させていった。今回の僕たちの班の目的地となる吸血鬼たちが潜んでいるという廃教会だ。



「はぁっ〜、それにしてもこりゃいかにもな雰囲気だな。」

「聖ベアトリーチェ教会。5年ほど前から誰もここに寄り付かなくなったらしいです。なんでも元々いた聖職者たちが謎の失踪をとげてそれからも近付いた人が次々に行方不明になったとかで。」

「現実的に考えるとその頃から吸血鬼の根城にされてたっていうところかね〜。」

「おそらくは。」

「んじゃまぁさっさと片付けますかね〜。4チームに分かれて教会を四方から包囲。もちろん正門からはシエルちんの部隊が突撃してあとは外に逃げてきた吸血鬼どもを殲滅する。以上!ほら、いった!いった!」

「「了解!!」」



正面から突撃する僕の部隊には一番多くの人数が割かれた。他の三方ではルド先輩のようなスナイパーを中心に伏兵が配備され教会から逃げた吸血鬼を一網打尽とする流れになっている。僕は腰から自分の体の一部とも言える剣を抜く。「琉麗なる蒼き剣〈リジル〉」女神の忘れ形見の一つで青みがかった光を放つ細身の剣だ。



「行くよ‥。行動開始!」

「「了解!!」」


僕たちは一斉に教会正門に向けて駆け出す。



「ぎゃあぁぁっ!!!」

「やめて!殺さないで!!」



「なんだ!?」


突然教会内から悲鳴が上がり僕たちは足を止める。


「‥わからないけど行ってみるしかないよ。扉を破るから全員十分に注意するように!」


バァッン!!


「我々は灰銀色の幻想ルミナス・ホロウだ!大人しく投降すれば君たちには教会の与えてる範囲内の権利を与え保護することを約束す‥。」


「シエルさん!どうしました!?‥これは‥。」


教会に入った僕たちはその光景に目を疑うことになる。古びて所々ガタがきてる床にはおぞましい量の血が流れ吸血鬼と思われる多くの男女が転がっている。



「教会の猟犬‥いえ、狼たちですか。」



闇の中から男性のものだろうがか細く透き通った声が聞こえたかと思うと彼は姿を現した。夜を纏ったかのような黒のロングコートにそれと対照的な雪のような白に近い銀髪。スクエア型の眼鏡の奥からは血の色と同じ紅色の深い瞳が覗いている。その男は彫刻のように美しく一目で吸血鬼であろうことがわかった。


一瞬‥いや、それ以上の時間を僕は彼の雰囲気につい呑まれるも思考を戻し剣を構えた。


「仲間である吸血鬼をなぜ‥もしかして君は条約の吸血鬼なのかい?」


吸血鬼には二つの勢力がある。一つは四大選皇家と彼らに忠義を尽くす貴族の支配するヴィルクリス皇国。そしてもう一つは人間から吸血鬼にされた転生者と呼ばれるものたちの一部が皇国の純血主義に反抗して作ったニヴル条約だ。転生者と純血の境界線はこうだ。オーレリアの産んだ4人の子供、後の四大選皇家の始祖となるものたちは自ら吸血を作り出せる力があった。彼らに直接命を作られたものたちは貴族となり選皇家と貴族の彼らの家系に連なるもののみが純血とされそれ以外の殺されて転生させられたものたちなどは権力を持つことを許されていない。


「私がニヴル条約ですか‥。」

「違うのかい?」

「冗談でもやめてほしいところですが否定する材料もありりませんね。」



男はどこか乾いた笑みを浮かべた。今のところこちらを攻撃してくる気配はないが油断はできない。なんといってもこの男はここにいる吸血鬼たちを1人で皆殺しにしたのだ。



「そうね〜、その男を私たちと同じにされるのは少々侵害かしら?」


「誰だ!?」

「ほう、これは随分と大物が出てきましたね。歪曲空間の放浪者ディバィン・ウォーカーエレオノーラ・カーマイン」



影からスッーと1人のしなやかな女性が現れた。黒のローブを着込んだパーマの黒髪から怪しげな紫の瞳が覗く褐色の美女だ。



「久しぶりね、我らが愛しき裏切り者ヴィンセント・クルーエル。あなたをこの手で殺せるのをどれだけ待ち望んだことか‥。」


彼女は両手で自分の体を抱くと恍惚とした笑みを浮かべて震えだした。


「君は相変わらず悪趣味ですね。私を本当に殺したいのなら君の愛しい主を呼んで来ることだ。こちらとしても探すて手間が省けてありがたい。」


「あははっ!!愚か!愚かぁっ!愚かあぁぁっ!!本当にあの方に勝てると思ってるのね!!本当に可愛いわぁ〜、私たちのヴィンス〜!!」


「あなたにその愛称で呼ばれると寒気がしますよ‥。まぁ彼のところにはあなたを捕らえて案内させるとしましょうか。」



「自信満々ねぇ〜、いいわ。遊んであげるっ!!」



突如として彼女の後ろの空間が歪みだしその体が吸い込まれた。そして次の瞬間にはヴィンセントの背中側の空間が歪み出したかと思えばそこから手に短剣を握った彼女が現れた!



「あははっ!!」


「見えてますよ‥。」



その時には既に彼の手には血で作られた身の丈ほどもある大鎌が握られており短剣の切っ先を引っ掛ける形で受け止めていた。彼がそのまま鎌を振り抜くとエレオノーラのしなやかな体が宙をとてつもない勢いで舞った。


「‥っ!!」


体を投げられながらも彼女は数本の短剣を投擲する!

しかし彼はそれをあっさりと鎌で弾くと空いている左手を一振りし空中に4本の紅色の剣を作り出しそれに回転を加え一気に宙を飛ぶエレオノーラに打ち出す!


しかし彼女もまたすぐに空間を歪めて壁にぶつかる前に転移し剣も壁を破壊するにとどまった。そしてすぐにヴィンセントの前に現れると再び短剣を繰り出すがまたも読んでいた彼に止められる。反撃が来る前に転移した彼女は連続で斬りつけや投擲を転移しつつ繰り返すもヴィンセントは全て読んでみせた。



壮絶な戦いを見ながら僕たちは行動を決めかねていた。あの男性の方の吸血鬼は皇国の吸血鬼を倒していたし今おそらく戦っているのはニヴル条約の吸血鬼と考えて良いだろう。知り合いのようだが今敵対してる経緯は不明だ。


「シエルさん、私たちは‥。」


「男性の方の吸血鬼は皇国側でも条約側でもおさらくはないだろうね。目下のところ僕たちの脅威となるのはあちらの女性の方の吸血鬼と判断する。」


「それでは私たちは彼の方に加勢しますか?押してるように見えますし。」


「そうしたいところだけど‥。」


見ていてはっきりとわかる。あの2人は明らかに僕たちとは別次元だ。下手に仕掛ければ一瞬で全滅させられる可能性もある‥。



「そちらの指揮官は冷静なようですので警告しておきます。やめておきなさい、君たちでは彼女にはまず勝てないでしょう。私にもあなた達の面倒を見る気もその余裕もありません。」



「な、なんだと!!」

「我々灰銀色の幻想を舐めないでほしいですね。」


「いえ、彼の言う通りです。」


「シエルさん!!」

「君たちもわかってるはずだよ。この戦いはレベルが違う、僕たちが参戦しても足を引っ張るだけだ。」

「くっ‥!」

「僕はルド先輩に連絡して事態に備える。君たちも気を抜かないように。悔しいのはわかるけど僕たちには僕たちにしかできないことがあるはずだよ。」

「はい‥。」



彼らも吸血鬼と戦うために毎日血の滲むような特訓をこなしてきた。またその特訓を共にやり遂げて毎日笑い合っていた仲間を生死を賭けた任務で多く失ってきた。彼らにとって自分の力が足りないほど悔しいことはないのだ。現に彼らの中から一握りの人間しか入れない小隊メンバーに所属し彼らの命を預かる立場の僕も結局はこうして何もできないんだからね‥。



そうしてる間にも両者の戦闘は激しさを増していた。エレオノーラは何本かの短剣を再び投げる。しかしその短剣はヴィンセントのところに向かうことなく空間に次々に出現した歪みに吸い込まれていく。短剣が吸い込まれると再び空間は元の姿に戻る。



「次は何を仕掛けてくるつもりですか?まぁ答える気はないでしょうが。」

「ふふふ、もちろんそれはお楽しみよ。」


彼女はまた空間の歪みに消えていき次の瞬間にはヴィンセントの頭上に現れ短剣を振り下ろしていた!


ガキッイィン!!


今回もヴィンセントは読み切り鎌を振り上げ短剣との間に激しい火花が散る!

パワーで勝るヴィンセントの鎌が彼女を吹き飛ばし次の瞬間には地面から無数の紅色の剣が出現し彼女を狙い穿つ。彼女は再び空間を歪めその中に消えようとするがヴィンセントが手を振るうと数本の剣が彼女の逃げ込む歪みの中に飛んでいった。



「あはあぁぁっ!!」


喜色の混じった嬌声をあげると彼女は体に数本の剣を突き刺しながら別の空間の歪みから地面に落ちていく。

しかし宙から落ちていく中で彼女は笑いながら指を鳴らし言葉を紡ぐ「歪曲空間の断罪劇ディバイン・パニッシュメント」!!



ヴィンセントの周りの空間があちらこちらで歪み出しそれは彼を包囲すると一斉に短剣を吐き出した!



即座に彼は鎌を振り衝撃波を放ち短剣を弾いていき致命傷になる場所を守る。しかし全てを防ぐことはできず何本かの短剣が彼の体に深く刺さっていた。










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