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魔術師同士の戦い①

「うわ~ここがウェルトール!」


 リーゼは賑わう商店街を見て、子供の様に目を輝かせる。

 露店を覗いては、これは何? と質問して回り、楽しそうに好奇心があちこちに飛び火する。


「なあ、リーゼ。早く朝ご飯を食べて魔術学院に行かないとギリギリになって試験に遅れるぞ」

「わかってる! あとちょっとだけ……!」


 言いながらも、リーゼの顔は露店の商品に釘付けだ。


「やれやれ……」


 早めに朝食を済ませ、さっさと学院に入って心の準備だの復習だのした方がいいんじゃないか、と言おうかと思ったが……余計なお世話だったか。そういえばリーゼは天才だった。


 時間としてはまだ余裕があるし、焦る必要はそこまでないか。それよりも、リーゼが色んなものに興味を示して楽しそうにしているんだ、邪魔する必要もないか。


「ねえねえ! レクス、こっちにも面白そうなものが!」

「はいはい。なにが――……」


 瞬間、身体に纏わりつくような、ドロッとした感覚を覚える。

 背後からの気配。


 これは……。

 振り向くと感付かれるか。


「どうしたの?」


 リーゼが不思議そうに俺の顔を見つめる。


「……いや、ちょっと人が多いところは歩きなれてないからさクラっとしただけだよ。で、何かあったのか?」

「大丈夫? 休もうか?」

「いや、大丈夫だよ、ありがとう。それで?」

「ならいいけど……そう、でね! あそこの――……」


 リーゼは気付いていないか。

 この独特な感覚は…………()()()()()だ。

 

 魔術師が街中にいることは別におかしいことではない。

 だから、街中で多少の魔力反応があったとしてもなんら不思議ではない。


 だが、この魔力は()()()()()()()()


 巧妙に、魔力を隠匿しようとしている。

 なかなかの手練れということだ。


 距離としては……右後方100メートルと言ったところか。

 この距離ならリーゼが気が付かないのも無理ないな(というか、隠匿しているからなおさらだけど)。


「――ねえ聞いてる?」


 リーゼが不意に目の前に現れ、俺の顔の前で手をブンブンと振って反応を伺っている。


 少し頬を膨らませているのは、不貞腐れているんだろうか。


「あぁ、悪い。なんだって?」

「これだよこれ。船が瓶の中に入ってるんだって!」


 リーゼは飾られている商品を、これこれ! と指さす。

 手のひらサイズのボトルの中に、ボトルギリギリの大きさの船が入っている。


「ボトルシップか。凄いな」

「魔術かな? こんなの手で出来ないよ」


 すると、それを聞いていた店主が、嬉しそうに笑う。


「はっはっは! 俺のは魔術じゃないさ。手作業でコツコツ作ってんのよ。ま、俺の作品が魔術みたいと言われるのは光栄だね。魔術にも引けを取らない技術って訳だ」

「いや、本当そんな感じですよ! 私こんな繊細に作業できないです!」

「言ってくれるねえ。お嬢ちゃん、旅行かい?」


 リーゼはぶんぶんと頭を振る。


「私達、ラドラス魔術学院を受けに来たんです」


 すると店主はほうっと唸る。


「なるほど。この時期は多いな、あんたたちみたいのが。一気に騒がしくなるが、うちとしてはかき入れ時だからありがたい。……まあ、頑張りな。受験者は毎年相当多いからな。倍率は数百倍らしいぜ」


 トップ校だけあり、その倍率はすさまじい。

 ほとんどの魔術師が受験するのだから当然なのだが。


「凄いですよね……けど、絶対受かるんで!」

「自信満々と来たか。いいね、頑張りな。そっちの兄ちゃんもな」

「ありがとうございます」


 そうして俺たちは一通り見て、リーゼが一つだけ買って露店を後にする。


 さて、少し時間が経ったが…………まだ居るか。

 

 常に一定間隔。

 リーゼ以外を狙っている可能性も考えたが、俺達と一定距離を採っているということはどうやらリーゼが狙いみたいだな。


 リーゼの魔力の検知できる距離は精々40メートルと言ったところだ。それも、俺の様に感じなれた魔力の時に限られる。一般的な距離でも15メートル程度という事を考えると、検知の射程圏外……用心深いやつだ。


 あいつの他に目立った魔力反応はない……単独犯か。

 このまま学院まで逃げ込んでもいいが、それだと根本解決にはならない。

 出待ちされるのも面倒だし、試験に乱入されるともっと厄介だ。


 そんな状況もしらず、隣ではリーゼが無邪気に笑っている。


 ……仕方ない、先手を打って早めに片付けるか。


「――リーゼ」

「ん?」


 俺の呼びかけに、リーゼがこちらを振り返る。


「どしたの?」

「そこの店で簡単な朝食をとろう」


 リーゼは俺が指した方を見る。

 そこには、多くの人で賑わっている店があった。


「わー凄い人だね。人気なんだ」

「美味しいってことだろうな。まあ、リーゼの家の料理人レベルとはいかないだろうけどな」

「あはは、リックさんのご飯は絶品だからね。よし、じゃああそこで食べよっか!」


 そうして、俺たちは店の中へと入る。

 ここなら人も多く、丁度良いな。


「わ~何にしよう!」

「リーゼ」

「ん?」

「悪いんだけど、ちょっとさっきの店で気になる物があったから、少し買いに戻りたい。ここで待っててくれるか?」


 するとリーゼは、わかったよ! とウキウキで頷く。

 すでに朝食を食べることで頭がいっぱいのようだ。食いしん坊で良かった。


「じゃあ、早く戻って来てよ~!」

「あぁ」


 そうして、俺とリーゼは一旦その場で別れる。


 俺は店から出る直前、人ごみに紛れてローブと仮面を装着する。

 これで、ストーカーからは俺が外に出たことは分からないだろう。


 俺はそのまま魔力の反応をしていた方へと向かって歩く。


 ――居た。


 左前方50メートルのあたりに、紫のローブを着ている茶髪の男が立っていた。

 俺達が入った店を監視するように、人ごみから少し離れた位置に立っている。


 確定だな。狙いはリーゼだ。

 怪しい魔力垂れ流しやがって……ここらへんでご退場頂こう。 


 俺は手前の路地に入り、タイミングを見計らう。

 そして。


「――“巻きプルウィンド”」

「ッ!?」


 瞬間的な魔力発動。

 男だけをピンポイントで狙い風を発生させ、路地裏へと引き込む。


 男は投げ飛ばされたように路地に転がり込み、慌てて受け身を取ると立ち上がる。


「ってえな……! 何だてめえ!?」

「狙いは、リーゼリアか?」

「!」


 男の顔色が変わる。

 何かを察したようで、はぁと短くため息をつく。


「……そりゃあ魔眼所有者だ、ボディーガードくらい居るよな」

「このまま帰るなら見逃す。二度と近づくな」


 すると、男はふっと笑う。


「出来ない相談だな。俺を誰だと思ってる……魔術師だぜ?」


 その目は、本気の目だった。

 口でどういっても通じない相手だ。


「クライアントの話じゃ、至って平凡な護衛が一人ついているだけって話だったが……あんたが隠し玉って訳ね」


 クライアント……雇われの魔術師か。

 こうしている間も、この男の魔力は循環し、いつでも練成できるように維持されている。魔術師として戦い慣れているな。


「何が狙いだ?」

「分かってんだろ? もちろん、“慈愛の魔眼”さ。“|Dead or Alive《生死問わず》”……眼さえ持ち帰ればいい。楽な仕事だ」


 男は不敵な笑みを浮かべている。


 裏の仕事を引き受ける魔術師……こういう連中が居ることは分かっていた。

 だが、気に食わないな。自分の意思で採りに来たならまだしも、ただの傀儡とは。


 リーゼの魔眼は天性のものだ。


 現時点でのリーゼの評価は“磨かれる前の原石”。

 強いと言っても所詮は同年代の中でずば抜けているというだけで、魔術師全体で見ればまだ上がいる。つまり、この先確実に魔術師のトップに成れる素質を持っているという将来性に価値がある状態だ。


 だが、唯一リーゼが現在進行形で持っている、その天才性に並ぶ価値のあるものがある。


 それが——「慈愛の魔眼」だ。


 先天的に備わった神秘。視て念じるだけで発動する魔術機構。

 それを狙う者は特に裏社会に多い。


「悪いが、この先の暗殺稼業に支障が出る。死んでもらうぜ」


 言いながら、男は構えを取り、俺との間合いを取る。

 一気に魔力が練成されていくのが分かる。


 男の手が、紫色に染まっていく。


 見たことのない魔術だ。つまりこれは……特異魔術か。


 “火弾ファイアバレット”のような汎用的な魔術ではなく、各魔術師固有の魔術。それが特異魔術だ。


 どうやら生成や強化魔術ではない……。

 となると、効果の付与……黒魔術師か。


 手の様子を見るに、接触は厳禁。

 黒魔術であるなら、触れられて何が起こるかわからない。まあ、見た目からして毒か酸といったところか。


「さあ、仕事の時間だ」

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